今は昔#30 『自分を考える余裕が出来た・・・』

(はじめに)

 六甲山は素晴らしい。あのタカラズカ文化もこんな六甲のseinが基盤にあっての話なのか、と納得します。 

 一介の住み込み職人に与えられる居室なんてたかが知れておりますが 青年には「これで十分」。調理人の資格で就職しているのです。「この一本の包丁が俺の人生を保証してくれる」。青年末期の青年は<俺も年を取りました>と自嘲気味です。

(本文)

  衣食住が保障されると 自分でも気になるほど変わり始めて行くのです。『本当に嫌な奴』になっていくのです。自信のなせるワザです。それに安っぽいプライドです。

 心身が落ち着くと 人間は何か勉強みたいなものをやりたく成るものらしい。彼も御多分に漏れず頑張っています。どんなに酔っぱらっても枕元には相変わらず、「太平記」三冊が置いてあります。

(おわりに)

 自分としては 生命保険にあらず生活保険にやっと加入出来た思いです。幼稚な話だけど あの時「これからだ!」とスタート・ラインに立ったのだった。

ただし好事魔多しというのか「うまく行かない」のです。「人間関係」です。俺は子供の頃から人間関係が嫌いだ。特に大人の気持ちや事情を忖度して一生懸命演技をしている子供の疲労を神様は考えたことあんのかよ?

 保養所は精々10人程の従業員の集まりです。従業員の多くは、特に保養所を預かる管理人はこの有名企業に寄り付いて生きている人たちです。一方、青年の方は 相手が金主であれ雇い主であれ卑屈になる必要のない自由人です。 二者のスタンスはまるで違います。うまく行く筈ない。

青年は 此処で「お利口さん」に決別出来るか否かに直面します。今までの人生の真逆のことをやるのですから、こりゃ大変だ。

                   おわり