今は昔#24 「伊豆は文学の里ですか」 中津さんそん

 

(はじめに)

 『誰それが来ていた・・・』なんて 芸能人の名を挙げて女子衆は好くお喋りに花を咲かせています。

天城湯ヶ島は 滝あり牧場ありトンネルあり等々と景勝史跡には事欠かない観光地です。青年が世話になった温泉村は先祖代々の温泉旅館を守っている印象がいっぱいなのですが 青年には人々皆さん商売繁盛金儲けに一生懸命に頑張ってるようには思えないのでした。隣の熱海の温泉街とはエライ違いです。  

衣食住はオーケー、かてて加えて温泉という医療も保障されているのです。徳川家康の愛妾が贔屓にしていた伝承にも頷けます。村には村民専用の無人温泉湯屋も存在してます。住民の持ち回りで清掃保全がなされているのです。

(本文)

芸者の置屋もありません。「按摩さんはいるけど芸者はいない」.芸者嬢は別の温泉町から遠距離タクシーでやって来るのです。 その時間もタクシー代も客負担となると大変高価な芸者衆となります。 そんな酔狂な客はあまり見かけないのです。

 遊興客でなく湯治客に近い旅行者が主流となりますと それを接待する方も プロ接待とは離れて「素人の言葉つき仕草」と為っています。なんとなく文学っぽいと言うのか?

従業員の中にそれらしき人がいました。小説家志望というのか自称小説家というのか。

妙に現実現在を問題にしてないように身構えたインテリさんです。

(おわりに)

 今となっては確っきり覚えておりませんが 経営者と喧嘩してか気まずいことに為ってか  早々に旅館は止めました。

 青年には「旅館の飼い犬との散歩」が半ば仕事となっていました。 そいつが 去る時に姿も見えなかったのに 遠く遠く村はずれまで声が追いかけて来るのでした。

これは本当にやり切れませんでした。

おわり。