今は昔#31 「人間関係は苦手 子供の時から嫌いじゃ…」 中津さんそん

 

(はじめに)

 保養所で働く者は例外なく住み込みで勤務しています。江戸期の金持ちが持っていました寮と称する別荘みたいなものでしょう。管理人は保安維持が仕事です。たまにやって来る主人の食

事は料理屋からの出前か、自家の料理人を連れて来るかです。管理人の仕事ではありません。現在は御主人様は社員であるサラリーマンとその家族に様変わりしましたから 青年のような専門職も必要となったところでしょう。コンクリート・ジャングルからはイロイロの意味で大部距離があります。ここは戦場ではありません。従業員は概して競争や闘争には表面上は無関心です。求めるのは平静な平和です。内実はと言えば 各人、他人には言えない事情の持ち主ばかりのようですが・・・。

駆け落ち男女が「夫婦」と称して管理人をやっている話なんかザラです。 「身を隠すには この手があるのか!」とその道には疎い青年も感心したものです

(本文)

 山荘は静かなものです。居住する人間も この環境を乱す人間は歓迎されません。「皆さん 仲良くしましょう!」

青年だとて最低限の常識位持っているつもりです。最初の内は好かったのですが時間が経つにつれ不調和音が出てきます。こんなこと 何処に行ったとて同じことですワ・・・

 本音を吐うと 青年は戸惑っていました。確かに周囲は 新宿の自由人でもない、神戸っ子でもない 伊豆の教養人でもない 釜ヶ崎のアウト・サイダーでもない。こんな種類の「無党派生物」に遇ったのは初めてのことです。

青年の母親は「字も読めない書けない」と、働くしか能のない明治女であった。 ボロボロに働いて青年が十一歳の時五十一歳の若さで死んでしまいました。

だからであろうか 青年には歴史の指導者に教えられるまでもなく『働かざる者食うべからず』は骨身にしみています。「こんなラクチンな労働でご飯を食べても許されるのであろうか?」と言う極々単純な思いでした。こんな甘い仕事を見つけるのが得意な人も世の中には居るんだ。

(おわりに)

環境の条件が良くとも どうも 神経の奥が従いていけない職場もあるものです

兎にも角にも やたらに本を読み、やたらに酒を飲んでいました。 建前は一応『自分探しの旅」「人間を生きる」を考えるなんて真面目面をしていたのに 「酒に酔うままに…」とは如何なものでしょう・・・

モーツアルトでも聞きながら ブランデー片手に一人沈思黙考なんてのは柄ではない。

それとも 大麻草を喫っしながら一人酒 なんてポーズなら格好いいんだけれど、無理無理な資質です。

かって 青年のことこを「あいつの酒の飲み方は まるで労働者みたいだ」と苦笑した男がいましたが 確かに <立ち飲み酒>を”考える”友とする男なんてのは「安っぽい」のかもよ?

おわり 。