今昔#45 Jikowsつれづれ語り『お母さんが家出をしました・・・」3500字 中津さんそん

 

 

(はじめに)

当ブログは 昨年三月に『母を尋ねて三千里』の名でブログしたものです。ところが昨日

「母を尋ねて三千里」という題名のテレビ・アニメが存在することを知りました。世の中には似たようなことを考える方が多いのだな と思ったのですが やはり自分でも何となく落ち着きませんので急遽rewriteしました。

 作中の女の子は今では大一の18才で賢い姉をやっております.この小文は当時やり切れない思いをさせられた近所の家出事件を小生3500の内輪話で現実を薄めて書き留めていたものです。

自分の好きな「小話」なので アニメ知らない老人は困りました。

(本文)

三人キョウダイです 一番上は小6のお姉さん、二番目は幼稚園のお兄さん、末っ子はまだオムツの一歳の男の子です。この子の存在が厄介なのです。なんせ100%自由人なのですから目が離せません。

 お姉さんは學校から帰ると ランドセルを放り投げ即遊びに行こうとします。

お母さんに呼び止められました

「お留守番お願いしま~す」

エッ アッ そうか。今日は 弟の水泳教室だった。母は弟をプ-ルまで送っていく。以前はチビも一緒に連れて行ったのに今は違う。弟の水泳練習はほとんど見ていない。なんか知らないけど 母は読書に夢中になっているのです。チビは邪魔なのです。

 母の自由時間は大事にしなければならないことは 子供たちは知っております。だから 留守番ときたら 必ず子守ですけど お姉さんは文句はありません。

 

苦手な電話が鳴りました。 お母さんが留守なのだから自分が出るしかない。

「はい ナニナニです」

「お母さん居ますか?」こっちをテンから子供だと決めつけている。カチンとくる

「今トイレです」「じゃ- 待たしてもらいます」

「待っても無駄です お母さん便秘ですから・・・」

ガチャンと切りやがる。 ざま-見ろ・・・

 「ピン・ポ-ン」

今度は誰だ? 留守番をしている時のチャイムはやたらに大きい。 多分 化粧品のセ-ルスだろう---

「お母さんは留守です」

「じゃう お嬢さんに説明書を預けていきますから 此処を開けてください…」

優しい声 きっとイケメンに違いない雰囲気です。 だけど こうゆう男が危険なのだと お母さんに散々注意されているので 「私には解りません」と絶対ドア-をあけません・

相手は何やらブスクラ言って パンフレットをポストにねじ込んで帰っていきました。

助かった。ホッとしました。

留守番の時には 如何にしてこのチビを守るか? 私の責任なのです。

食いついてやるか 抱っこして逃げるのがいいか だけど二人とも子供だから 大声出して「助けて…!」が一番だろう。

何でもやってやる・・

 それにしても お母さん 早く帰って来て欲しい。

プ-ルから帰る時間はだいたいは決まっている。なのに今日は遅い。どうして? 嫌な予感がする。

交通事故? 弟が溺れた。

末っ子の方はお姉さんの気も知らないで「キャ-キャ-」ご機嫌であります。

 実のところは 彼女がパニックになるほど時間は経っておりません。今は六時四十分近い 長針と短針を読み違えているのです。

「もう八時じゃないの---」 彼女らしからぬボンミスです。

 

 姉は直ちに勇気ある行動に出ました。

チビをベビ-カ-に押し込むと 母を求めてプ-ルに走ります。

マンシヨンの玄関で顔見知りの小母さんに出合いがしら「あら-どうしたの?」と声をかけられても 返事の余裕もありません。そのまま一直線。

 ところでプ-ルでは、「もう、とっくに帰りました」と冷たい答えです。 お姉さん半ベソです。

 お母さんとは出会う筈は無いのです。

母はママ友とのお喋りが長くなってプ-ルを出るのが遅くなったのです。だから すこしでも早く帰りたいと 道は悪いけど近道を選んだのでした。何時もの道ではありません。

「お母さんが何処かに行ってしまった。 三人の子供を置いてどこかの兄さんと家出してしまった!」

半狂乱です。

 

 この突然変化には理由があったのです。

この一週間 お姉さんの頭を離れない事件があります。

友だちのお母さんが家出をしてしまった事件です。パートに行っているス-パ-の若い兄さんと居なくなってしまったのです。

 友達は二つ上の兄さんと 朝早くから夜遅くまでスーパ-の従業員口でお母さんを待ちました。

お母さんは帰って来ませんでした。友達は學校にも来なくなりました。

この間道であったので 「元気--?」って 話しかけたのですが 全然返事をしてくれませんでした。ガリガリに痩せて まるで別人でした。

 このことがあって お姉さんはピリピリしているのです。ん

 だけどお姉さんの違うところは ここで「強くならなければ チビを一体だれが守っていくんだ・・・・」と 泣きそうに口を引き締める頑張り屋の処かもしれません。(私は泣かないから・・・)

困った時には交番に行く。

突然ガタビシ走り出したので チビさんはビックリ。でも 荒っぽいのは大好き、ご機嫌である。

 交番です

「お母さんが居なくなったの・・・」

いきなりベビ-カ-が飛びこんできて 半ベソの女の子が助けを求めてきたのです。お巡りさんもビックリ。

一見 迷子になるような年齢ではない 「お母さんが居なくなった・・・」

ハハ-ン また母親の家出ですか…警察は慣れています。

「嫌な世の中になったものです。最近この手の事件 多くなりました」と渋い顔です。

 お巡りさんは兎に角二人を中に入れて話を聞きました」

「ちょっと待っててね」と 何処かに電話をしています。

 

 話代わってこちらはお母さんです。

家に帰って見ると留守番の二人がおりません。「あらあら・・」と首を傾げますが別に心配はしません。どうせ 近くのス-パ-にでも行ったのでしょう。でも鍵が掛かっていない。あの子にしては不用心な。まあ いいか。部屋が荒れてるわけでもないから。母は長女を信頼しています。

お母さんは 鼻歌交じりで夕食の準備に取り掛かります。

それにしても長い、もう一時間近くも経っているので ちょっと不安になっても来ます・

もう少し待ちました。 自動車事故?

 実は この四・五日の娘の様子が気にかかっていたのです。さしたる用事があるわけでもないのに私にくっ付いてくる。 母親にベタベタする年齢でもあるまいし、とは思っていたのですが・・・友達の母親の家出騒ぎは耳にしていましたが。

 ス-パ-でないとしたら もしかしたら私を探しに出たのではないか? 母親の第六感です。

 直ぐに水泳教室に電話をすると 先ほど それらしい少女がベビ-カ-を押してきたけど ベソかいて帰りました

と言います。

 やはりとも思うし オッチョコチョイとも思うし やはり我が子だとも思います。

 母は即 行動に移りました

『ちょっと探してくるから 留守番頼んだわよ』

急に言われたって 留守番なんかしたことのない坊主は。

知らない と言おうとしたら母の怖い顔にぶつかって 思わず「オ-ケ-」と言ってしまいました。

あんまりアッサリ返事をさえれて お母さんの方が「大丈夫?大丈夫?」なんて念を押す慌てぶりでした。

母親は通学路を逆に探しましたが 会う筈ありません。プ-ルに回りましたが やはり無駄です。

今日の母娘は 間が悪いというか ヤルことナスこと 全てチグハグです。 世の中 こんなこともあるのでしょう。

 

 丁度この頃 マンションにお巡りさんが確認に来ていました。

幼稚園ぐらいの男の子が一人でゲ-ムをやっております。お利口だな! この年齢で留守番かよ。

「お母さん どうしていますか?」

お姉さんと下のチビを探しに出て居るという。 これで警察官は”お母さん探し”の顛末を略想像できたのでした。

苦笑しながら緊急の電話を返しておりました。

 お母さん お姉さん 幼稚園の弟 一歳の末っ子四人は 無事我が家に出会うことが出来ました。

 これで めでたしメデタシの筈でした。

ところが お母さんが『ありがとうございました ありがとうございました』と 米搗きバッタみたいに礼を言い お巡りさんも「よかった ヨカッタ」と帰ると 母の爆弾が破裂したのです。

母親自身も何故自分が切れてしまったのか解らない。子供たちも 何故怒られるのかサッパリ解りません。

中でも 小六のお姉さんは(まさか お母さんが家出したんじゃないか…)なんて お母さんに聞けないじゃないの・・・と泣きたくなるばかりです。

母親自身は子供の心が 嫌と言うほど解るのです。 自分も同じ小六の時 事故で母親を失う悲しみを味わっているからでした

母は夕ご飯の支度に入りましたが 子供達には背を向けたまま

「お母さんは 世界がつぶれても どんなことがあっても あなたたちを捨てたりしません」と 半泣きでした。

今日の晩御飯は 予定変更で人気のハヤシ・ライスです。 何時もより肉がいっぱい入っておりました。

           おわり  。