今昔#46 Jikowsつれづれ 「真夜中 調理場で一人酒」 中津さんそん

酒は一人に限る。山も単独行に限る。

少年の頃からそうだった。人間関係の苦手な野郎には必然の道です。 特別寂びしくもないし

孤独でもない。 頭の中はにぎやかなものです。一人でいるからと言って 世の中に認められていないわけではないし、。 ちゃんと働いているし 僅かながらも税金も納めている。もっとも社会に認められていると言っても それは路傍の石どころか 一つまみの砂にも程遠いものですが。 御多分に漏れず 夢ばかり大きくて中身がない中身がなくとも 一人酒の心は知っているつもりです。 六甲山で山荘の調理場をやっている時 一日の最後 調理場の後始末も終わり一段落すると つい酒に手が伸びる。 不思議なものでこの時誰か人がいると酒はやりたくない。 サッさと自室に引揚げ 部屋で飲んだ方が酒は美味いし落ち着くだろう。 同僚連中が早々に居なくなったりしたものなら 己も退場したら勿体無い。千載一遇のチャンスとまでは言わんけど貴重な夜ですよ、一人だけの調理場の夜なんてのは・・・

んてこんなものです。これを折りたたみのアルミ椅子に正座して しかも電気は一つだけを残してあとは消して暗くする。なんて稚気丸出しの一人酒です。これがよい。

 二十歳一寸過ぎで自殺まがいの死に方をした幼友達の墓前に一人たたずみ飲む酒は 詩の原因を知るだけに怒りというか しかし この老いになってしまうと“やり切れない”だけになってしまいました

。これも昔になりますが 単独行の一人酒も慣れたものでした。

八が岳赤岳の鎖り場で最中急に酔いが回ってきたのです。周囲を見回しても人影はありません

単独行なんかやっていますと 何時も前か後ろにパーティの姿がみられるものですが そんなとき「エイ、うさん臭い奴等よ」。ナンてぼやいていたのに この日は酔いの廻った自分は

滅茶苦茶な恐怖に包まれたのです 。さしたる難所でありません。何時もなら鼻歌交じりの山です。 今もって 何故あんな恐怖に襲われたのか理由は解りません.私はその時以来山

での朝酒昼酒はやりません。身体が受け付けなくなっているのです。朝酒の山なんて沙汰の限りですよ、こんなことも気にかけないお粗末若者だったな、俺は恥じるのみ・・・

なのに 調理場では今もって朝酒昼酒は 量こそ減ってはおりますが健在です

 どうやら 岳人と料理人との密度の違いでしょうか?

           つれづれ続きます