今昔#43 Jikowsつれづれ語り 「三才児家出をする」2600字 中津さんそん

 

ジュンが行く方をくらませたのは 親子三人で遊園地に出かけた時のことです。無論日曜日で男は仕事は休みです。男はジュンのお母さんとの結婚が決まったので その記念にもと遊園地行は決められたのでした。

 ジュンの母親は二十代半ばと若い まだ学生気分が抜けていない。 母は祖母と西成釜ヶ崎近くの繁華街で「酒場」をやっています。お祖母ちゃんといっても四十代の女盛りです。一見して”訳あり“と想像される母子です。店はアルバイト女性も入れて結構繁盛していました。

 ジュンは三才の男の子ですが男手のない家族の中では大事にされているためか、若様みたいなオットリ顏が何とも可愛らしい。

 客の中に二人の男性が足繁く母を目当てに通って来ることをジュンは気づいていました。

一人は今日一緒に遊園地に行く若い男の沼田さん、もう一人は別れた父と同じ匂いのする料理職人の小野田さんです。

結局母親は若いほうの沼田君を選んだのでした

 

。 その朝 約束の駅までジュンと母親は半分走って急ぎました。沼田の兄さんは

先に来ています。手を振っているのが見えます

「ほら お父さんよ よかったわネー」とお母さんは言います。チョッと戸惑っていると

『お母さんとどっちが速いか競争しようか』と勝手に決めて「ヨーイどん」と手を叩きます。

ジュンは人ごみの中を器用に抜けて お母さんより先に走ります。

日曜日の駅前は 人人でごった返しております

大人二人は無事出会い。「おはよう」とハイタッチですが先に着いている筈のジュンの姿がありません。

此処は以前にも何回も来ていますから慣れている筈です。

「あら嫌だ かくれんぼでもするつもりかしら・・・」と大人は笑っていましたが それにしても遅い 変だーー  「何してんのかしら?」 周囲をキョロキョロするのです。嫌な予感がします。二人が密かに恐れていたことです。

「ジュン ジュン」人ごみの中を探しますけどいません。

お母さんの頭の中は真っ白です。男に任せておれない。

通り合わせの警察官に 「子供が・・・、ジュンが・・・」とまくし立てるけど 意味がさっぱり解らない。

「そうだ、おばーちゃんの処に戻っかも知れない」  家は近いのです。大人二人は走りました。 走りながら母は考えました「それにしても どうして? やはり 小野田の伯父さんなのかな?」。  沼田の兄さんも後を追いかけながら思うのでした「やはり 俺じゃダメなんよ」

 

所変わって こちらは小野田さんちのアパートです。

何かがドアーをトントン叩きます。今日は仕事休みなので布団の中でモタモタしていたのに面倒臭いな とドアーを開けると 「ナニ これ?」びっくりしたわーーー

三才のジュンがこっちを見上げてニコニコしているではありませんか

「やあー」と言った小野田さんの声は幾分泣き節です。実は母親に振られたのは詮無い話としても ジュンとの別れは可成り応えていたところだったのです。

取りあえず【まあ 入れ入れ」急いで部屋を片付け ジュン好物のチェリー缶を開けた

『よく来たなー お母さんは後から来るのか?』

ジュンは返事もしないでチャラチャラ食べている。まあ いいか!  母子は前にも何度も来ているし そのうち来るさーーー

それから二人は二時間ほども夢中で遊んだものです。 小野田さんは ジュンの為に狭い部屋に小さな鉄棒を用意しているのでした。

遊びながら 小野田さんはどうも納得出来ないのです。後から来る筈の母親が一向に姿を見せない。不思議なのは 母親が居ないのにジュンは全然気にしていないことです。 何時もなら親が一寸トイレに立ったぐらいでも後を追うくせに。やはり なんか変である。

 『お母さん 遅いな…?』タメ息交じりに尋ねてみた。

すると『お母さん来ないよ』と驚くほど素っ気無い返事です。

ここと店の間は然したる距離ではないにしろ 三才の幼児が覚えられる道順ではありません。

それを駅から店に戻って 祖母に見つからんように抜け出して 小野田さんのアパートまでやって来た大冒険です。

 

 実は この頃 ジュンの家出は大変な騒ぎとなっていたのです。親の目の前で 子供が忽然と消えってしまったのです。 オカルト遊びじゃ などと冗談なんか言ってる余裕などありません。母親は店にも子供は戻ってないことを知ると道にへたりこんでしまいました

ご近所さんがワンサと集まってきました。考えらる筋は全て当たりましたがナシの礫です。

母は泣くことも出来ない放心状態ですが それでも思い当たることが出てくるのです。

 「じゅんちゃん頼むから聞いてちょうだい。沼田の兄さんと仲良くしね お母さんの一生のお願い」と息子を抱きしめたのは、つい三日前のことでした。 ジュンは何も言わなかった。

無口を幼い子供のOKだと決めつけてしまったことでした。迂闊だった、誰にも言えない反省でした。

男の沼田さんもバカではありません。これで確っきり思い知ったのでした。

 

 話は小野田さんのアパートに戻ります。

ジュンは鉄棒に懸命ですけれど 小野田さんは大人の対応をしなければなりません。

電話をするにしても もしアイツが出てきたらゴウッ腹が立つわなーーー

こちらから歩いていけば途中でぶつかるだろう。 あの母親なら 何か気が付いて俺のところに迎えに来るだろう?        と小野田さんは常識的に考えたのですぃた。

「よーし 帰るぞーーー」

ジュンハ何故か帰るのを嫌がるのでした。それをなんとか納得させて二人は手を繋いで帰り始めたのでした。それでもノロノロ愚図るので抱っこをするしかなかったのでした。

 途中期待していた出会いもなく二人は無事店に着いたのでした。

店の前は黒山の人だかりです

「ジュンが戻ったぞ―――」の大声にピョコンと頭を上げた母親は「あー」とか「おー」とか訳の分からん声を張り上げると 猛烈な勢いで駆け寄ると凄い勢いで息子をボカボカと殴り始めたのです。「お客さんの処になんか行っちゃいけないでしょう」と又バンバン叩くのですが 声ばかり高くして怒っているのですが。全然泣いてもいないし悲しんでる目でもない。子は気が付きました。《お母さんは 沼田の兄さんに見せるために怒っているんだ。それが証拠にはいくら母が叩いても丸っきり痛くないのでした。

ジュンは何か母に悪い事をしてしまったような気がして【お母さんゴメンナサイ】と呟いていました。。

 結局 女親は息子の優しさに甘えて沼田さんと再婚しました。

                   おわり

PS;このブログは一昨年のもの(2019-12-18.遺書四番「ジュンの家出」)をrewriteしたものです。