Jikows つれづれ#77 [0話し少年 家出をすすめる」」中津さんそん

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950年頃の太平洋戦争が終って混乱がまだまだの東京です。舞台は国電JRの恵比寿駅近辺の土地です。

駅を見下ろす高台に マッチ箱みたいなバラック家屋が密集しています。中身は全て約一で、八畳一間に畳一枚の炊事流し台には一輪のガス器具が置けるだけ。狭いトイレに猫の額の靴脱ぎ場。急拵えの公営住宅のはしりでした。ここに、11歳の少年と若い母親が生活しております。父親は一年前に死にました。工事用トラックの運転手でしたけど密造酒の中毒でした。酒飲みで、喧嘩早く正義感丸出しのお人よしの父親を少年は好きでした。

早いものです。一年なんて[アッ]と言う時間です。

やがて、新しい<お父さん>が決まりました。死んだ父とは同じ会社のトラック野郎です。いわば親父の弟分でしたが、彼は兄貴とは違い、酒も飲まずギャンブルもしないまるで芸能人みたいなイケメンです。

父が元気な時からよく家に遊びに来ていました。いつも酔っ払った父を介抱して連れ帰ってくれていました

だから、母から「小父さんが新しいお父さんになる」と告げられた時には 何か予想していたことが現実に為っただけのことで特別に驚きはしませんでした

小父さんは何処にいても必らずと言っていいほど人の注意を集める人でした。そんな人がお父さんになったのですから自分たち家族に特別な光が差し始めたように少年には思えたものです。学校でも近所でも 質問もされていないのに、ペラペラ余計なことをしゃべり新しい父親を自慢しているのでした。。美人のお母さんとは似合いのカップルです。

新しい三人家族の新生活は驚きの連続です。。

食事は必ず家族三人一緒です。死んだお父さんの時には、晩御飯でも親子三人一緒に食べることなんか、月の内、一度か二度と数えるほどしかなかったのに・・・。

やがて、その半年後に新しい妹が生まれました。妹は生まれた時からすごい美人になること間違いなしの美赤ちゃんでした。少年とは大分第一印象が違うのです。 「男の子だからよかったものの もし女の子だったら どんなに母親をしんぱいさせてしまった」ことやらと 少年は本気に神様を恨んだことがあったほどです。

 妹の加わった四人家族は さらに賑やかになりました。少年は 妹の面倒をよく見るし お母さんは スーパーのパートを掛け持ちしてまで頑張っている。今までは一ヶ所だったのに・・・。働き過ぎのような気がします。お金を貯めて引っ越しをしたいらしい。来年の春には妹か弟か分からないけど新しい家族が増えるからです。

そして予定どうり妹が出来ました。

少年は赤んぼ妹をおんぶして姉さん妹と遊んだのです。パートの仕事を減らそうとしないお母さんのことも心配で少年は大奮闘です。学校はかなりサボリました。まあ 平気平気・・・。

ところ好事、魔多しと言いますが、世の中いい事ばかりは続かないもののようです。

英語の授業中に事務の女の子がやってきて「直ぐ職員室に来るように」と言った。

あうあ、またお説教のたらい回しか?と憂うつになっていたら告げられたのは「お母さんが交通事故だ.すぐ病院に行けーー」と言うものでした。少年は一瞬意味が解りませんでした。

父も妹も顔色を変えてやってきました、で事件の説明をされたのですが パートの仕事帰りに 母は自転車通勤でしたのですが、交通信号無視のオート三輪車に横なぐりの衝突です。問題は加害者が無免許・未成年 火急の仕事中の出来事であったことです。 世の中は 平和憲法が始まり 人権口論が五月蠅くなる揺らん期です。嫌な、悪い予感がしました。(あんのじょう、予感は的中しました。)

 泣いている余裕はない。中二の兄と小三の妹は息の合った協力関係でした、本当に・・・。少年は

朝は300軒近くの新聞配達です。この部数は通常の2倍ほどの数ですが、令和の時代と違い昭和時代の

“世の中情報”は絶対的に新聞が主役です。テレビもマダマダの時代です。ネットに至っては影も形もない。だいたいどこの家庭でも一紙や二紙の新聞は取っているという知識欲の風土なのです。 ですから 勝手知ったる渋谷の自分の縄張り内とあっては、例え中学生であろうとも知恵次第でけっこう生きていけるんじゃ。

朝夕の新聞配達だけではない、新聞代金の徴収もやった。広告チラシの配布にも精をだした。おまけに

  • 新聞の新規購読者のセールスもやる。これらは全て、歩合制の給与でした。学校なんかに行ってる暇なんて当然のこと、だけどナイナイ、ないわ。

妹は母の言いつけを聞きに病院に日参します。みんな頑張った。何とかかんとか心配したけど、家庭はまあまあ無事平穏に回転していました。

  ところがです。当時の日本は朝鮮戦争に出くわし、隣の火事で焼け太りなんで、あまり格好いい話じゃないけれども、国中金ヘン景気に浮かれ結構忙しい世の中でした。

父の仕事も忙しい筈でした。  ところが、お義父さんは最近は会社を休みがちなのです。

「最近、仕事ひまなんだよ・・・」と,お父さんはウソ笑いをしながら弁解をするけれど、嘘だと子供達にはとっくにバレているのに…。少年も妹たちも子供は馬鹿ではありません。世間も町内の大人はお父さんもお母さんもじじ・ばばも皆んな毎日仕事に行ってるじゃないか・・・。ただ、お父さんの嘘が恥ずかしくて黙って我慢しているのに…。

    実は父は、お母さんの交通事故を手っ取り早く示談にしてしまったのです。妻には事後承諾で納得させたみたいです。

  父は持ちつけない金額の金を手にしてかなり興奮したみたいです。その金額と言っても30過ぎた一家の責任者ならば時と場合によっては平常的に目にしなければならない金額です。ところが、この男には“その経験”がないのです。彼の履歴書の淋しさが知れるというものでした。千円札を束ねた厚さに、一もニもなく簡単に舞い上がってしまったのでした。

  彼には人に語れないコンプレックスがあります。「確かに俺はバーに行ってもキャバレイに行ってもちやほやされる。町内でも会社でも女たちの噂の的になってることは知っている」。(だけど、やつらは俺をバカにしている、内心では絶対オレを軽蔑してるんだ。金を持っていない男は本当は持てる筈ないんじゃ)

男は周囲の空気の底を一瞬にして読み通す本能の持ち主でした。頭が良いのか、ずる賢いのか、世渡り上手なのか?

   やがて、男の帰宅は遅くなり、あの飲まない筈のお酒の匂いをさせるまいにちでした。昔の遊び仲間や会社の同僚たちに良い恰好をしとぃるのでした。

    少年も妹も示談金の事は知りませんし、たとえ知ったとしても何も言えなかったと思います。

義父は、だんだん少なくなってはいきますが、給料袋は丸ごと渡してくれます。だからでしょうか、おかあさんは「お父さんが頑張ってんだから、家のことはお前たちが頑張ってちょうだい」、と少年に頼むのでした。義理の男を信んじている母を前にしては、少年は何も言えないのです

それでも、少年と妹は夢中に頑張りました。食事は二人が作りました。掃除洗濯は当然のことです。苦になりません。

ですけど子供たちは不安なのです。 と言うのは、お父さんの様子が最近なんかとても変なのです。顔を合わせても口数は少ないし、朝なんかでも「おはよう・・・」と言っても返事もしてくれない。あの冗談好きの周囲を明るくしていた人気者の父は、いまではすっかり能面みたいなやさおとこです。気味が悪くなるほどです。最近は、お酒を飲んで帰る日が多いし、母親が家にいないと、男親ってものはこんなに変わる弱虫なものか、と少年は驚くのでした

最近見慣れえない人が家に来るのが多いと思っていたら、ある晩義父は子を前にして告げたのでした。「うちは来月から生活保護を受けることの成った。お母さんもあんなことになってしまったし、わしも仕事が少なくなって、うちは金がないんだ。お前たちも我慢してや・・・」

「嘘をつけ・・・」。少年は瞬間に悟りました。「所詮、この男はこの程度の男なんだよ」。

案の定、男は少年が(ソウあっては欲しくない)安物だったようです

 

 

先ず、DVから始まりました。可哀そうにも 酒の酔いに醜くゆがんだ父親の顔を目にした時の 妹の恐怖都いうか 驚きお言うか 悲しそうな顔を少年は生涯忘れることが出来ません。 少年の方は 予想していた出来事なので ただ黙って下向きに転がり父親からの「殴る 蹴る」に半ば遊び心で耐えていたのですが・・・。「こんなところ お袋には見せられんぜ・・・。

  男は 健気にも妹には手を出さない。ターゲットは少年だけだった。いつも「俺をバカにしやがって・・・」「俺をバカにしやがって・・・」と  半泣きの怒声を喚いているのです。少年には何故だか理由はわりません。

正直言って 理由なんか どうでもいいや。 解りたくもないワーーー。

  家の中の内輪はどうあれ外に対しては平穏普通の生活をみせておりました。

 男親の変ぼう以来 妹が兄を気づかう優しさがより深くなったように少年には感じられるのです。「うん あいつは俺の心の思いを分かっているのだ」。 と 顔に赤や青の痣を作りながらも内心は大満足だったのです。

  ところが、 どう狂ったのか、あいつは妹に、俺には妹だけど義父には実の娘だぜ、少年とは次元が違うだろう? 

その夜の義父の暴力は何時もと狂暴の度合いが違っていた。

ほとんど無抵抗の少年を仰向けにして馬乗りになり「バカにしやがってーーーバカにしやがって・・・・」と カラスが狂ったみたいな金ぎり声を張り上げて少年の顔面を殴りつけるのです。

馬乗りになった義父が言うも言われぬ奇妙奇天烈な声を発して少年の上からころげ落ち静まったので 不思議に思った少年が頭を上げて見た光景に仰天してしまいました、

 血塗られたこん棒を下げた妹のすがたでした。

 未完