今昔#47 Jikowsつれづれ話 「虐めた相手の親はヤクザだった・・・(2900字)」 中津さんそん 中津さんそん

 

僕は中学二年、同じクラスにかなりムカツク奴がいる、だけど、そいつの親父はヤクザだからチョッと迂闊に手出せないんだよな山田君と言います。。。

山田君は足が悪い。釣り人形のようにヨタヨタ歩く、体育の時間はいつも見学です。

痩せていて色が白いから見た目はひ弱ですけど、実際は凄いほど強い男です。学校の廊下階段は誰の助けも借りない。階段の上り下りなどは、まるでサ-カス少年です。

手摺につかまって蟹の横バイなんだけど。

 

その降りる時は。二・三段どころか、時には十段ぐらいも一度に降りて見せることもある。。どうするかというと手すりにつかまって跳ね上がる、そして宙に浮いている間に スルスル-と腕の支えだけで下るのです。皆は喜んで手を叩きます。お茶目なユ-モアもあるのです。

 勉強が又すごい。国語英語数学のテストは何時も学年トップです。

昼休みには 何時も一人で難しそうな本を読んでいます。

舐めて掛かったら 飛んでもないことに為る事を皆は知っているから 苛めなんてことは絶対起こりっこないのです。

 あの父親のことだから 必ず何か 必殺技を教えているに違いないのです。

一度山田君の喧嘩を見てみたいものです。凄いだろうな---!

でも やはり ムカツクことに変わりはありません。

 

 今日は學校にいくことにします

朝の校門で 又山田くんち親子三人に出あってまいました

 山田君は車いす登校です。正門まで親が押してきます。校門からは 山田君は一人で歩いてくるのです。学校に入ってしまったら 例え、山田君が転んだとしても 親は助けに駆け寄ることはありません。

下校の時間になるとどちらかの親が校門の脇で車いすとともに待っています

今日みたいに雨の日でもこのシ-ンは必ず見せつけられるのでした。

 

雨で体育は自習時間です。先生は居ません。教室は理由もなくはしゃいでいます。

誰か黒板の前でお笑いをやっています教室は拍手拍手湧いております。

 

全然似ていない。「降りろ!」とヤジが飛ぶ。

すると晴美が『お次の番だよハイ私!』と、一人漫才をやりだすがぜんぜん面白くない

晴美を無視して教室は「チャップャップ」とはやし立てます。チャップとは少年のあだ名です。子供たちはチャップリンと言う喜劇俳優を知りません。チャップとは 彼の愛称であることも知らない。少年がチャップと呼ばれるのは チャップリンの真似がうまい芸人に姿恰好が似ているに過ぎないびっこガニ股でドタバきだけなのに…。

御呼びが掛かると悪い気はしません。何時もの通り始めました待ってました、拍手。登場です

ですが、少年本人は「なんか変だ?どうも調子が出ない」。体調の悪さに気が滅入ります。

知らず知らずの中に、少年の芸は山田君の「びっこ」になっているのです

教室は気づいていませんが、少年は慌てます『どういう事?』

俺は障碍者の真似をするようなゲスじゃない・・・・

ですが、焦れば焦るほど、教室は沸いてきます。割れんばかりの拍手。

身体中 脂汗でビッショリ。自分で自分が何が何やらわかりません

泣きたい!

少年の泣きっ面がプロの芝居なのでしょう、益々うけます 拍手。。

教室の騒ぎを廊下の窓から清水先生が見ていたのを誰も気が付いていません

「ガラ、ガラ」と開けると清水先生が飛びこんできました

少年を引きづり降ろすと滅茶クチャの平手打ちです。

教室はいっぺんに静まり返りました。余りの激しさに 誰もが「先生は狂っている」と思いました。このままでは死んでしまう。

この時の騒動を聞きつけて大人たちが駆け付けたので 何とか事は収まったのでした。

事件の噂はアッという間に広がりました

「暴力教師云々」

教育委員会が来る、人権団体が来る、マスコミがわんさ来る。

連日見慣れない顔がうろついて、学校はいっぺんに感じ悪くなりました。

それにしても少年は落ち着きません。

山田君を傷つけてしまった罪です。それも 相手の障害を口にするなんて最低の人間です。恥ずかしくて 世間様に顔出しできないよ

はやく山田君に謝りたい。親や学校の仲介なしに直接本人に頭を下げたいのです。山田君の父親が出てきらヤバイけど。。

少年の父なんか道でおじさんに出会ったりするとペコペコ頭を下げて道を譲っている。

山田君処は僕と同じ町内であることは先に言いました。利用している銭湯もおなじです。

だから当然悪い予感がありました。

案の定山田父子に出会ってしまったのです。風呂場で、しかも素っ裸です。もう逃げられません。

「ヤバイ」

率直に謝るしかない。小細工の通じる相手ではないのです。

真っ裸で山田親子の前に直立不動の姿勢を取りました。

 「ごめんなさい、僕が悪いのです」精いっぱいの勇気です。

ところが、おじさんは少年をジロリと眺めて、黙して語らず<なんだ このガキ?>と言わんばかりの顔付きです。

口も利きたくないほど伯父さんは怒っているに違いありません

そりゃ障害の息子を虐めた奴を目の前にしたら誰だって切れるでしょう・・・

生半可なことでは許してもらえない。「どんな罰でも受けます」少年はいきなり土下座をしたのです。しかも裸です。。

少年は小さい時から立派なヤクザに憧れていました。ですから無意識のうちに子供らしからぬ格好をつけてしまったのでしょう。裸の少年に土下座されては大人の方が困ってしまう。

おじさんは 怒っている顏ではありません、妙な展開にキョトンとしています。

 どういうことだ? と息子の方を見ると きまり悪そうに下を向いて黙っています。

おじさんは 事件のことは真正に何も知らないのです。山田君は <苛められた>ことなど一言も親に話してはいないのです。

 おじさんは「そんな恰好しないで起きなさい

何も知らないでゴメン。よかったら おじさんに説明してくれないかな?」

  「ワッハッハッハ-----」。湯屋をヒックり壊すような大笑いです

息子の頭を良く我慢したな、と言っているように撫ぜながら

「キミもよく言ってくれたな。勇気のある男の子じゃ」と褒めてくれた。

僕は本当の男の人に、「お前は男だ」と言われたのです。一生の感激です。

おじさんは「それにしても、君のチャップリンは余程下手糞なんだな」と笑う。「とてもお笑い芸人にはムリだな」(芸人なんか、なりたくないや)

そうだ坊ず。良いことがある。

今度の悪さの罰として、おじさんの背中を洗いなさい。

下手糞芸人には修業が必要じゃ。背中流しも大事な内弟子修行じゃ」

 

おじさんは一人ご機嫌です。背中を洗えと言われても、少年はこんな化け物みたいな背中見たことないからビビって近つけない。

山田君に聞くと

笑って答えない。まさか?と黙って突っ立っていると

「早くヤレ-」のおじさんの催促です。

解ったよ、やりゃいいんだろ、少年は半分目を閉じて、手を飛ばした時

後から山田君が[気味悪いだろう?これ刺青を消した痕だよ。危ないことないから大丈夫だから・・・

おじさんは上向いて目を閉じているだけです。

観ているだけで震えがくるのに洗うとなるとどうしても触らないわけにはいかないだろう

さてどうするか?おじさんは、二人がモタモタ困っているのに知らんプリです。

結局少年は山田君とショマ・ショマありましたが協力して、云いつけ通り背中を流し終わりました。

おわり

PS; 本文は`’19.11月のブログをrewriteしました。