私の終活 やはり「酒と山と児童少年少女小説」が続きます。中津さんそん

孫への遺書 四番「じゅんの家出」

(梗概)

 母親は 東京で協議離婚をすると 三歳のじゅんを連れて大阪の実家に戻りました

実家では生業の居酒屋を手伝い 常連客の小野田中年男と沼田青年の二人の男と懇意になりました

 母は沼田青年と結婚することに為り 未来の家族三人は遊園地に出かけた

途中 じゅん児童は姿を消失させ 小野田さんのアパ-トに現れました。

 子供の突然の行方不明事件で 警察・親・近所は大騒ぎ、その顛末です。

 

 (本文)

  じゅんの父親は 個人営業の仕出し屋をやっていました 十五の歳から勤め上げた親方ののれん分けでありました 出身が極端な貧乏であったせいか 少年は成人になっても 酒ギャンブルをはじめ遊びごとには疎い男であった。それに天性の腕の良さです。

 親方は青年をことのほか気に入り 自分の姪を娶せ店を持たせたのでした。

  若者は親方の期待に応えてくれました。朝は五時に起きて大釜に火を入れることから一日が始まり 明日の仕込みが整い包丁を納めるのは春夏秋冬を通じて夜中近かったのです。

家族三人の団欒の時間はない。金持ちのお嬢さん学校とは言え 一応は大学卒である妻には会社経理を任せ 水仕事は一切やろそうとはしないのでした

 妻は 商売用の弁当持参で 息子と近くの公園で多くの時間を会話もなしに過ごすのが日課だったのです。

 お別れの前日 家族三人は店を臨時休業として 横浜まで足を延ばし中華街で食事をしました。

 夜は 淳はお父さんとお風呂に入り、そして一緒に寝ました

 

  翌日は東京駅まで新幹線を見送ってくれました

  実家の居酒屋は この界隈では古株に属します  生前の父親は 商売仲間にも 酒飲み放浪者の間にも  お堅い“偏固“者と評判でありました。経歴も係累も全く噂にならない御仁でした。 世俗的には面白みのない男なのです。  なにせ 死んで分かったのですが この男には色っぽい女房もいるし そして二人の美人娘がいたのです。 この事実は世間を驚かせました  日陰の訳あり中年独身が通り相場だったのですから  女家族は客の前には出さなかったのも不思議ではありません。夫の死後 未亡人となった祖母は 滅茶苦茶に働きだしました

後家の踏ん張りと これはこれで常連客の人気となったのですが 居酒屋は常連客だけではない 自分の体力のこともあって 若い女の子を接客に雇い入れたのです。 ところが この女 若いのに水商売は大変な経験者だったのでした。

ど素人の俄か女将の酒場は お茶の子サイサイ。 女の子は慣れた口先で一週間ほど接客を見せてくれました  店内の流れもスム-ズになったと思いきや ど素人女将は 此処で玄人の女の子をクビにして周囲を驚かせたのです。  それでも一月分の給料をだして謝礼としています。、

 女将はプライドを見せたのはいいのですが 居酒屋は忽ち閑古鳥が鳴かんばかりの雰囲気となってしまったのでした。 年寄りの常連客の顔触れは相変わらずと言うところですが どうも あまりパットしない印象です。

 母親の困惑した表情を見て 出戻り娘が「私が店を手伝う・・・」

此れには 母親も学生の妹も「ダメダメ・」と首を振ったのですが 内心は「あの引っ込み思案の姉の変わりようにビックリしたのが本当の印象でした

 気の進まない女将を押し切って 「まあアルバイトとして頑張って呉れたら…」ぐらいにしか周囲は期待してなかったのですが  ところが このピンチ・ヒッタ-が大当たり

二十三歳の若さ 地元お嬢さん大学出身の才媛 気は優しくて美人 まるで 天性のホステスでした。。

 

ゼニ勘定はリ-ズナブル 雰囲気はアットホ-ム プロの街に咲いた素人の居酒屋です。常連客が増えました。

 あれから二年近くの時が流れました。こんな短い時間に 実にさまざまの人物と知り合いになりました。自分でも すっかり大人に変身してしまった自分自身に感動しているほどでした 静かだった結婚時代は 彼女には苦痛な時間であったのかもしれません。

 

 彼女は若い、二人の男に恋をしました。 一人は小野田のおじさん。 もう一人は沼田のお兄さんです。

 小野田のおじさんは ジュンが会いたいと思った時には不思議にやって来ます。

直ぐ公園です。鉄棒とサッカ-の練習です 幼稚園でしり上がりの出来るのは自分だけです。 皆の前でやって見せて 驚く顔を見るのは最高の気分です。

 沼田のお兄さんとは先日ホテルのディナ-ショウに行きました。お母さんも一緒です。どちらかと言えば お母さん好みのショウでした。涙を流さんばかりに喜ぶ母を見ているとジュンもつい嬉しくなります。

 

 お母さんが再婚することに為りまりました

相手は沼田の兄さんです。小野田のおじさんではありませんでした。

その夜 お母さんは「ジュンは 沼田のお兄さんのこと嫌いじゃないわよね?」と 

しつこい程何度も何度も同じことを聞くのです。僕の手をつかんで ジッと確かめる母の目があまりにも心配そうなので

「大丈夫だよ 僕お兄さん大好きだから・・・」と 元気づけたのに それでも お母さんは「お願い お願い お母さんの一生のお願い-----」

ジュンを 何時までも抱きしめているのでした。

 

 ジュンとお母さん沼田の兄さん三人は遊園地に行くことに為りました。

 その朝 約束の駅まで ジュンと母は半分走って急ぎました沼田の兄さんはすでに先に来ていて駅前で手を振っているのが遠くからも見えました。

「ほら お父さんよ  良かったわね---」

一寸戸惑っていると 「お母さんと どっちが速いか競争しようか?」

「ヨーイ ドン!」 母はジュンの手を放しました。 

 ジュンの姿は人混みの中を器用に縫っていくように見えました。日曜日の駅前は家族ずれでごった返しております

 お母さんはお兄さんと直ぐおしゃべりを始めています。 この時 ジュンは二人の前から忽然と消えてしまったのでした。

此処は以前にも何回も来ています 慣れているはずです。

「あら嫌だ こんな処で かくれんぼでもするつもりかしら?」

お母さんは軽く笑って お兄さんと話が弾んでいます。

「それにしてもまだ来ないわ?何してんのかしら?」

周囲をキョロキョロする。 嫌な予感がするのです。それは 沼田のお兄さんも同じです

 「ジュン ジュン」人ごみの中を探してみます。 いません

不安がつのってきます。悪いことを考えてしまいます。交通事故—乱暴に人をはねのけて「ジュン…」と大声に叫んでしまう

お母さんの頭の中は<真っ白>です。 沼田のお兄さんに任せておれない・・・

通り合わせの警察官に「子供がーーー、こどもがーーー」と まくし立てるけど 早口で意味がサッパリ解らない。

 「そうだ お婆ちゃんの処にもどったかもしれない---」

そうだ そうだ 今来た道を急いで引き返します 走って 走って 全力疾走です

-----それにしても どうして? やはり 小野田のおじさんのことなのか?

お母さんは そのことを考えざるを得ないのでした

 沼田のお兄さんも 後を追って走ります  <やはり 俺のことを避けているか----->

  所変わって 小野田のおじさんの家です。 親子の店からは1キロ程離れた古い木造二階のアパ-トです。

 何かがドアをトントン叩きます。小さな音なのでハッキリしません。 今日は勤めが休みなので まだ布団の中でマゴマゴしていたのでした  なんだろう---?  誰か来たのかな?  面倒臭いなあ---  しぶしぶ起きて「誰?」と 戸を開けると「なに これ?」  ビックッリ  信じられない

 二三歳の子供がこっちを見上げてニコニコしてるではないか、ジュンです。

「やあ---」と言った小父さんの声が心なしか幾分泣き節です。感動のあまり言葉にならない。

 実は 小野田さんは母親と沼田の兄貴との結婚話は耳にしておりました. 母親のことは別としてもジュンのことが気にかかり思案に沈んでいたところだったのです。

取りあえず「まあ 入れ入れ…」 急いで布団を上げバタバタ片付ると ジュンが来たときにはと用意してたチェリ-の缶詰を開けた。彼の好物である。

『よく来たなあ-? お母さんは後から来るのかい?』 それには答えず 美味い美味いと食べています。

 小野田のおじさんは学校給食の仕事をしています。 東京に残してきた父親と同じ匂いがします。 

二人は それから二時間ほど夢中で遊びました。部屋には 小さな鉄棒が組み立てております。 おじさんが ジュンが来たときのために買っておいたものです。

 遊びながらも どうも腑に落ちません

後から来るはずのお母さんが一向に姿を見せません。 なのに ジュン自身は一向に気にしている様子はないのです。何時もなら母親が一寸トイレに立ったぐらいでも後を追うくせに 。なんか変である。

確かめる思いで おじさんはため息交じりに「お母さん遅いね・・・」

「お母さん 来ないよ!」 驚くほど素っ気無い返事です。 えっ---そんな---

「じゃ---一人で来たの?」 「うん-」  そんなの 嘘っ

距離にしたら さしたる距離ではないかもしれない。 それでも大人の足では二十分はかかる。 三歳の子供いしたら大冒険ものであろう。

 以前 お母さんと二度ほど一緒に来たことはある。 それにしても 曲がりくねった街の中をよくぞ歩いたものだ しかもアパ-トの部屋まで上がって来たのだから 感動のあまり涙が浮かんできます。

それにしても 駅から家に戻り おばあちゃんに見つからずに頑張ったのですから奇跡に近いでしょう  よくぞ 道筋を覚えていました ありがとう

 

 実はこ゚の頃 ジュンの家では大変な騒ぎとなっていました。 親の目の前で子供が消えてしまった。オカルト遊びじゃあるまいし 前代未聞の出来事っです。

お母さんは店の前にへたり込んでしまい 沼田の兄さんと近所のおばさんが何を言っても放心状態です。なすすべがありません。

思い当たるところは全て当たりました。 まさか 小野田さんの処とは 誰一人思い起こす人はいない。名まえさえ口に出すものはない。

 ただ お母さんと沼田の兄さんは 「もしかしたら・・・」と 小野田さんの存在は気にかかるところですが 頑是ない子供がこんな大冒険をやる なんてことはテンから空想だに出来ないことでした。

話は小野田さんのアパ-トに戻ります。

ジュンは鉄棒に夢中です  おじさんは考え込んでしまいます。

電話をしてみるか--- でも 沼田が出たら 何というか?   さて どうする?

店からここまでの道順は大略決まっている。 此方から歩いていけば 迎えに来るであろう母親に会うに違いない    「ヨ――シ 帰るぞ---」*

ジュンは何故か帰るのを嫌がった それをなんとか納得させて 二人は手をつないで歩きだしたのです。ジュンはノロノロ、珍しく愚図るので抱っこをするしかないのでした。

とうとう顔見知りに出会うこともなく店につきました。

 「ジュンが戻ったぞ---」 大騒ぎです。

ジュンのお母さんは「ワ-」とか「ギャア-」とか叫んで走りよると やにわにジュンの頬っぺたを殴った

(それは無いよ---) ジュンはお母さんにとんでもない悪いことをしてしまった と半ば後悔していました  とに角遭ったら即「ごめんなさい」と言うつもりでいたのに 顔を見るなにビンタかよ? 僕の気持なんか 初めから全然お呼びじゃないのか・・・悔しいけど 笑っちゃ・・・いけないんだ。

 見ると お母さんは泣いて怒っています。   どうしよう?  困った。

だけど 僕、故意と小野田のおじさんとこに行ったのでは無いよ、気が付いたら着いていたんだから。 「何なのか 僕わかんない---」

 母は解ってくれるどころか ますます怒りますます泣くのでした

彼女はショックだった。まさか ヤッパリ 小野田さんとこに行っていたのか―――

お兄さんには 何と弁解したらいいか・・・

どんなにか 母親を虐めてしまったか  ジュンは「ごめんなさい ごめんなさい 」「もう二度としません 僕 お母さんの言いつけ通り頑張ります---  だから泣くのは止めて・・・」

「いいのよ いいのよ ゴメンナサイはお母さんの方なのだから―――」(本当に 私って母親失格だわ―――)

 

結局 彼女は多少の疚しさはありましたが 息子の優しさに助けられて めでたく再婚したのでした。

            おわり

*本文は去る三月のブログに手を

孫への遺書 四番「じゅんの家出」

(梗概)

 母親は 東京で協議離婚をすると 三歳のじゅんを連れて大阪の実家に戻りました

実家では生業の居酒屋を手伝い 常連客の小野田中年男と沼田青年の二人の男と懇意になりました

 母は沼田青年と結婚することに為り 未来の家族三人は遊園地に出かけた

途中 じゅん児童は姿を消失させ 小野田さんのアパ-トに現れました。

 子供の突然の行方不明事件で 警察・親・近所は大騒ぎ、その顛末です。

 

 (本文)

  じゅんの父親は 個人営業の仕出し屋をやっていました 十五の歳から勤め上げた親方ののれん分けでありました 出身が極端な貧乏であったせいか 少年は成人になっても 酒ギャンブルをはじめ遊びごとには疎い男であった。それに天性の腕の良さです。

 親方は青年をことのほか気に入り 自分の姪を娶せ店を持たせたのでした。

  若者は親方の期待に応えてくれました。朝は五時に起きて大釜に火を入れることから一日が始まり 明日の仕込みが整い包丁を納めるのは春夏秋冬を通じて夜中近かったのです。

家族三人の団欒の時間はない。金持ちのお嬢さん学校とは言え 一応は大学卒である妻には会社経理を任せ 水仕事は一切やろそうとはしないのでした

 妻は 商売用の弁当持参で 息子と近くの公園で多くの時間を会話もなしに過ごすのが日課だったのです。

 お別れの前日 家族三人は店を臨時休業として 横浜まで足を延ばし中華街で食事をしました。

 夜は 淳はお父さんとお風呂に入り、そして一緒に寝ました

 

  翌日は東京駅まで新幹線を見送ってくれました

  実家の居酒屋は この界隈では古株に属します  生前の父親は 商売仲間にも 酒飲み放浪者の間にも  お堅い“偏固“者と評判でありました。経歴も係累も全く噂にならない御仁でした。 世俗的には面白みのない男なのです。  なにせ 死んで分かったのですが この男には色っぽい女房もいるし そして二人の美人娘がいたのです。 この事実は世間を驚かせました  日陰の訳あり中年独身が通り相場だったのですから  女家族は客の前には出さなかったのも不思議ではありません。夫の死後 未亡人となった祖母は 滅茶苦茶に働きだしました

後家の踏ん張りと これはこれで常連客の人気となったのですが 居酒屋は常連客だけではない 自分の体力のこともあって 若い女の子を接客に雇い入れたのです。 ところが この女 若いのに水商売は大変な経験者だったのでした。

ど素人の俄か女将の酒場は お茶の子サイサイ。 女の子は慣れた口先で一週間ほど接客を見せてくれました  店内の流れもスム-ズになったと思いきや ど素人女将は 此処で玄人の女の子をクビにして周囲を驚かせたのです。  それでも一月分の給料をだして謝礼としています。、

 女将はプライドを見せたのはいいのですが 居酒屋は忽ち閑古鳥が鳴かんばかりの雰囲気となってしまったのでした。 年寄りの常連客の顔触れは相変わらずと言うところですが どうも あまりパットしない印象です。

 母親の困惑した表情を見て 出戻り娘が「私が店を手伝う・・・」

此れには 母親も学生の妹も「ダメダメ・」と首を振ったのですが 内心は「あの引っ込み思案の姉の変わりようにビックリしたのが本当の印象でした

 気の進まない女将を押し切って 「まあアルバイトとして頑張って呉れたら…」ぐらいにしか周囲は期待してなかったのですが  ところが このピンチ・ヒッタ-が大当たり

二十三歳の若さ 地元お嬢さん大学出身の才媛 気は優しくて美人 まるで 天性のホステスでした。。

 

ゼニ勘定はリ-ズナブル 雰囲気はアットホ-ム プロの街に咲いた素人の居酒屋です。常連客が増えました。

 あれから二年近くの時が流れました。こんな短い時間に 実にさまざまの人物と知り合いになりました。自分でも すっかり大人に変身してしまった自分自身に感動しているほどでした 静かだった結婚時代は 彼女には苦痛な時間であったのかもしれません。

 

 彼女は若い、二人の男に恋をしました。 一人は小野田のおじさん。 もう一人は沼田のお兄さんです。

 小野田のおじさんは ジュンが会いたいと思った時には不思議にやって来ます。

直ぐ公園です。鉄棒とサッカ-の練習です 幼稚園でしり上がりの出来るのは自分だけです。 皆の前でやって見せて 驚く顔を見るのは最高の気分です。

 沼田のお兄さんとは先日ホテルのディナ-ショウに行きました。お母さんも一緒です。どちらかと言えば お母さん好みのショウでした。涙を流さんばかりに喜ぶ母を見ているとジュンもつい嬉しくなります。

 

 お母さんが再婚することに為りまりました

相手は沼田の兄さんです。小野田のおじさんではありませんでした。

その夜 お母さんは「ジュンは 沼田のお兄さんのこと嫌いじゃないわよね?」と 

しつこい程何度も何度も同じことを聞くのです。僕の手をつかんで ジッと確かめる母の目があまりにも心配そうなので

「大丈夫だよ 僕お兄さん大好きだから・・・」と 元気づけたのに それでも お母さんは「お願い お願い お母さんの一生のお願い-----」

ジュンを 何時までも抱きしめているのでした。

 

 ジュンとお母さん沼田の兄さん三人は遊園地に行くことに為りました。

 その朝 約束の駅まで ジュンと母は半分走って急ぎました沼田の兄さんはすでに先に来ていて駅前で手を振っているのが遠くからも見えました。

「ほら お父さんよ  良かったわね---」

一寸戸惑っていると 「お母さんと どっちが速いか競争しようか?」

「ヨーイ ドン!」 母はジュンの手を放しました。 

 ジュンの姿は人混みの中を器用に縫っていくように見えました。日曜日の駅前は家族ずれでごった返しております

 お母さんはお兄さんと直ぐおしゃべりを始めています。 この時 ジュンは二人の前から忽然と消えてしまったのでした。

此処は以前にも何回も来ています 慣れているはずです。

「あら嫌だ こんな処で かくれんぼでもするつもりかしら?」

お母さんは軽く笑って お兄さんと話が弾んでいます。

「それにしてもまだ来ないわ?何してんのかしら?」

周囲をキョロキョロする。 嫌な予感がするのです。それは 沼田のお兄さんも同じです

 「ジュン ジュン」人ごみの中を探してみます。 いません

不安がつのってきます。悪いことを考えてしまいます。交通事故—乱暴に人をはねのけて「ジュン…」と大声に叫んでしまう

お母さんの頭の中は<真っ白>です。 沼田のお兄さんに任せておれない・・・

通り合わせの警察官に「子供がーーー、こどもがーーー」と まくし立てるけど 早口で意味がサッパリ解らない。

 「そうだ お婆ちゃんの処にもどったかもしれない---」

そうだ そうだ 今来た道を急いで引き返します 走って 走って 全力疾走です

-----それにしても どうして? やはり 小野田のおじさんのことなのか?

お母さんは そのことを考えざるを得ないのでした

 沼田のお兄さんも 後を追って走ります  <やはり 俺のことを避けているか----->

  所変わって 小野田のおじさんの家です。 親子の店からは1キロ程離れた古い木造二階のアパ-トです。

 何かがドアをトントン叩きます。小さな音なのでハッキリしません。 今日は勤めが休みなので まだ布団の中でマゴマゴしていたのでした  なんだろう---?  誰か来たのかな?  面倒臭いなあ---  しぶしぶ起きて「誰?」と 戸を開けると「なに これ?」  ビックッリ  信じられない

 二三歳の子供がこっちを見上げてニコニコしてるではないか、ジュンです。

「やあ---」と言った小父さんの声が心なしか幾分泣き節です。感動のあまり言葉にならない。

 実は 小野田さんは母親と沼田の兄貴との結婚話は耳にしておりました. 母親のことは別としてもジュンのことが気にかかり思案に沈んでいたところだったのです。

取りあえず「まあ 入れ入れ…」 急いで布団を上げバタバタ片付ると ジュンが来たときにはと用意してたチェリ-の缶詰を開けた。彼の好物である。

『よく来たなあ-? お母さんは後から来るのかい?』 それには答えず 美味い美味いと食べています。

 小野田のおじさんは学校給食の仕事をしています。 東京に残してきた父親と同じ匂いがします。 

二人は それから二時間ほど夢中で遊びました。部屋には 小さな鉄棒が組み立てております。 おじさんが ジュンが来たときのために買っておいたものです。

 遊びながらも どうも腑に落ちません

後から来るはずのお母さんが一向に姿を見せません。 なのに ジュン自身は一向に気にしている様子はないのです。何時もなら母親が一寸トイレに立ったぐらいでも後を追うくせに 。なんか変である。

確かめる思いで おじさんはため息交じりに「お母さん遅いね・・・」

「お母さん 来ないよ!」 驚くほど素っ気無い返事です。 えっ---そんな---

「じゃ---一人で来たの?」 「うん-」  そんなの 嘘っ

距離にしたら さしたる距離ではないかもしれない。 それでも大人の足では二十分はかかる。 三歳の子供いしたら大冒険ものであろう。

 以前 お母さんと二度ほど一緒に来たことはある。 それにしても 曲がりくねった街の中をよくぞ歩いたものだ しかもアパ-トの部屋まで上がって来たのだから 感動のあまり涙が浮かんできます。

それにしても 駅から家に戻り おばあちゃんに見つからずに頑張ったのですから奇跡に近いでしょう  よくぞ 道筋を覚えていました ありがとう

 

 実はこ゚の頃 ジュンの家では大変な騒ぎとなっていました。 親の目の前で子供が消えてしまった。オカルト遊びじゃあるまいし 前代未聞の出来事っです。

お母さんは店の前にへたり込んでしまい 沼田の兄さんと近所のおばさんが何を言っても放心状態です。なすすべがありません。

思い当たるところは全て当たりました。 まさか 小野田さんの処とは 誰一人思い起こす人はいない。名まえさえ口に出すものはない。

 ただ お母さんと沼田の兄さんは 「もしかしたら・・・」と 小野田さんの存在は気にかかるところですが 頑是ない子供がこんな大冒険をやる なんてことはテンから空想だに出来ないことでした。

話は小野田さんのアパ-トに戻ります。

ジュンは鉄棒に夢中です  おじさんは考え込んでしまいます。

電話をしてみるか--- でも 沼田が出たら 何というか?   さて どうする?

店からここまでの道順は大略決まっている。 此方から歩いていけば 迎えに来るであろう母親に会うに違いない    「ヨ――シ 帰るぞ---」*

ジュンは何故か帰るのを嫌がった それをなんとか納得させて 二人は手をつないで歩きだしたのです。ジュンはノロノロ、珍しく愚図るので抱っこをするしかないのでした。

とうとう顔見知りに出会うこともなく店につきました。

 「ジュンが戻ったぞ---」 大騒ぎです。

ジュンのお母さんは「ワ-」とか「ギャア-」とか叫んで走りよると やにわにジュンの頬っぺたを殴った

(それは無いよ---) ジュンはお母さんにとんでもない悪いことをしてしまった と半ば後悔していました  とに角遭ったら即「ごめんなさい」と言うつもりでいたのに 顔を見るなにビンタかよ? 僕の気持なんか 初めから全然お呼びじゃないのか・・・悔しいけど 笑っちゃ・・・いけないんだ。

 見ると お母さんは泣いて怒っています。   どうしよう?  困った。

だけど 僕、故意と小野田のおじさんとこに行ったのでは無いよ、気が付いたら着いていたんだから。 「何なのか 僕わかんない---」

 母は解ってくれるどころか ますます怒りますます泣くのでした

彼女はショックだった。まさか ヤッパリ 小野田さんとこに行っていたのか―――

お兄さんには 何と弁解したらいいか・・・

どんなにか 母親を虐めてしまったか  ジュンは「ごめんなさい ごめんなさい 」「もう二度としません 僕 お母さんの言いつけ通り頑張ります---  だから泣くのは止めて・・・」

「いいのよ いいのよ ゴメンナサイはお母さんの方なのだから―――」(本当に 私って母親失格だわ―――)

 

結局 彼女は多少の疚しさはありましたが 息子の優しさに助けられて めでたく再婚したのでした。

            おわり

*本文は去る三月のブログに手を

孫への遺書 四番「じゅんの家出」

(梗概)

 母親は 東京で協議離婚をすると 三歳のじゅんを連れて大阪の実家に戻りました

実家では生業の居酒屋を手伝い 常連客の小野田中年男と沼田青年の二人の男と懇意になりました

 母は沼田青年と結婚することに為り 未来の家族三人は遊園地に出かけた

途中 じゅん児童は姿を消失させ 小野田さんのアパ-トに現れました。

 子供の突然の行方不明事件で 警察・親・近所は大騒ぎ、その顛末です。

 

 (本文)

  じゅんの父親は 個人営業の仕出し屋をやっていました 十五の歳から勤め上げた親方ののれん分けでありました 出身が極端な貧乏であったせいか 少年は成人になっても 酒ギャンブルをはじめ遊びごとには疎い男であった。それに天性の腕の良さです。

 親方は青年をことのほか気に入り 自分の姪を娶せ店を持たせたのでした。

  若者は親方の期待に応えてくれました。朝は五時に起きて大釜に火を入れることから一日が始まり 明日の仕込みが整い包丁を納めるのは春夏秋冬を通じて夜中近かったのです。

家族三人の団欒の時間はない。金持ちのお嬢さん学校とは言え 一応は大学卒である妻には会社経理を任せ 水仕事は一切やろそうとはしないのでした

 妻は 商売用の弁当持参で 息子と近くの公園で多くの時間を会話もなしに過ごすのが日課だったのです。

 お別れの前日 家族三人は店を臨時休業として 横浜まで足を延ばし中華街で食事をしました。

 夜は 淳はお父さんとお風呂に入り、そして一緒に寝ました

 

  翌日は東京駅まで新幹線を見送ってくれました

  実家の居酒屋は この界隈では古株に属します  生前の父親は 商売仲間にも 酒飲み放浪者の間にも  お堅い“偏固“者と評判でありました。経歴も係累も全く噂にならない御仁でした。 世俗的には面白みのない男なのです。  なにせ 死んで分かったのですが この男には色っぽい女房もいるし そして二人の美人娘がいたのです。 この事実は世間を驚かせました  日陰の訳あり中年独身が通り相場だったのですから  女家族は客の前には出さなかったのも不思議ではありません。夫の死後 未亡人となった祖母は 滅茶苦茶に働きだしました

後家の踏ん張りと これはこれで常連客の人気となったのですが 居酒屋は常連客だけではない 自分の体力のこともあって 若い女の子を接客に雇い入れたのです。 ところが この女 若いのに水商売は大変な経験者だったのでした。

ど素人の俄か女将の酒場は お茶の子サイサイ。 女の子は慣れた口先で一週間ほど接客を見せてくれました  店内の流れもスム-ズになったと思いきや ど素人女将は 此処で玄人の女の子をクビにして周囲を驚かせたのです。  それでも一月分の給料をだして謝礼としています。、

 女将はプライドを見せたのはいいのですが 居酒屋は忽ち閑古鳥が鳴かんばかりの雰囲気となってしまったのでした。 年寄りの常連客の顔触れは相変わらずと言うところですが どうも あまりパットしない印象です。

 母親の困惑した表情を見て 出戻り娘が「私が店を手伝う・・・」

此れには 母親も学生の妹も「ダメダメ・」と首を振ったのですが 内心は「あの引っ込み思案の姉の変わりようにビックリしたのが本当の印象でした

 気の進まない女将を押し切って 「まあアルバイトとして頑張って呉れたら…」ぐらいにしか周囲は期待してなかったのですが  ところが このピンチ・ヒッタ-が大当たり

二十三歳の若さ 地元お嬢さん大学出身の才媛 気は優しくて美人 まるで 天性のホステスでした。。

 

ゼニ勘定はリ-ズナブル 雰囲気はアットホ-ム プロの街に咲いた素人の居酒屋です。常連客が増えました。

 あれから二年近くの時が流れました。こんな短い時間に 実にさまざまの人物と知り合いになりました。自分でも すっかり大人に変身してしまった自分自身に感動しているほどでした 静かだった結婚時代は 彼女には苦痛な時間であったのかもしれません。

 

 彼女は若い、二人の男に恋をしました。 一人は小野田のおじさん。 もう一人は沼田のお兄さんです。

 小野田のおじさんは ジュンが会いたいと思った時には不思議にやって来ます。

直ぐ公園です。鉄棒とサッカ-の練習です 幼稚園でしり上がりの出来るのは自分だけです。 皆の前でやって見せて 驚く顔を見るのは最高の気分です。

 沼田のお兄さんとは先日ホテルのディナ-ショウに行きました。お母さんも一緒です。どちらかと言えば お母さん好みのショウでした。涙を流さんばかりに喜ぶ母を見ているとジュンもつい嬉しくなります。

 

 お母さんが再婚することに為りまりました

相手は沼田の兄さんです。小野田のおじさんではありませんでした。

その夜 お母さんは「ジュンは 沼田のお兄さんのこと嫌いじゃないわよね?」と 

しつこい程何度も何度も同じことを聞くのです。僕の手をつかんで ジッと確かめる母の目があまりにも心配そうなので

「大丈夫だよ 僕お兄さん大好きだから・・・」と 元気づけたのに それでも お母さんは「お願い お願い お母さんの一生のお願い-----」

ジュンを 何時までも抱きしめているのでした。

 

 ジュンとお母さん沼田の兄さん三人は遊園地に行くことに為りました。

 その朝 約束の駅まで ジュンと母は半分走って急ぎました沼田の兄さんはすでに先に来ていて駅前で手を振っているのが遠くからも見えました。

「ほら お父さんよ  良かったわね---」

一寸戸惑っていると 「お母さんと どっちが速いか競争しようか?」

「ヨーイ ドン!」 母はジュンの手を放しました。 

 ジュンの姿は人混みの中を器用に縫っていくように見えました。日曜日の駅前は家族ずれでごった返しております

 お母さんはお兄さんと直ぐおしゃべりを始めています。 この時 ジュンは二人の前から忽然と消えてしまったのでした。

此処は以前にも何回も来ています 慣れているはずです。

「あら嫌だ こんな処で かくれんぼでもするつもりかしら?」

お母さんは軽く笑って お兄さんと話が弾んでいます。

「それにしてもまだ来ないわ?何してんのかしら?」

周囲をキョロキョロする。 嫌な予感がするのです。それは 沼田のお兄さんも同じです

 「ジュン ジュン」人ごみの中を探してみます。 いません

不安がつのってきます。悪いことを考えてしまいます。交通事故—乱暴に人をはねのけて「ジュン…」と大声に叫んでしまう

お母さんの頭の中は<真っ白>です。 沼田のお兄さんに任せておれない・・・

通り合わせの警察官に「子供がーーー、こどもがーーー」と まくし立てるけど 早口で意味がサッパリ解らない。

 「そうだ お婆ちゃんの処にもどったかもしれない---」

そうだ そうだ 今来た道を急いで引き返します 走って 走って 全力疾走です

-----それにしても どうして? やはり 小野田のおじさんのことなのか?

お母さんは そのことを考えざるを得ないのでした

 沼田のお兄さんも 後を追って走ります  <やはり 俺のことを避けているか----->

  所変わって 小野田のおじさんの家です。 親子の店からは1キロ程離れた古い木造二階のアパ-トです。

 何かがドアをトントン叩きます。小さな音なのでハッキリしません。 今日は勤めが休みなので まだ布団の中でマゴマゴしていたのでした  なんだろう---?  誰か来たのかな?  面倒臭いなあ---  しぶしぶ起きて「誰?」と 戸を開けると「なに これ?」  ビックッリ  信じられない

 二三歳の子供がこっちを見上げてニコニコしてるではないか、ジュンです。

「やあ---」と言った小父さんの声が心なしか幾分泣き節です。感動のあまり言葉にならない。

 実は 小野田さんは母親と沼田の兄貴との結婚話は耳にしておりました. 母親のことは別としてもジュンのことが気にかかり思案に沈んでいたところだったのです。

取りあえず「まあ 入れ入れ…」 急いで布団を上げバタバタ片付ると ジュンが来たときにはと用意してたチェリ-の缶詰を開けた。彼の好物である。

『よく来たなあ-? お母さんは後から来るのかい?』 それには答えず 美味い美味いと食べています。

 小野田のおじさんは学校給食の仕事をしています。 東京に残してきた父親と同じ匂いがします。 

二人は それから二時間ほど夢中で遊びました。部屋には 小さな鉄棒が組み立てております。 おじさんが ジュンが来たときのために買っておいたものです。

 遊びながらも どうも腑に落ちません

後から来るはずのお母さんが一向に姿を見せません。 なのに ジュン自身は一向に気にしている様子はないのです。何時もなら母親が一寸トイレに立ったぐらいでも後を追うくせに 。なんか変である。

確かめる思いで おじさんはため息交じりに「お母さん遅いね・・・」

「お母さん 来ないよ!」 驚くほど素っ気無い返事です。 えっ---そんな---

「じゃ---一人で来たの?」 「うん-」  そんなの 嘘っ

距離にしたら さしたる距離ではないかもしれない。 それでも大人の足では二十分はかかる。 三歳の子供いしたら大冒険ものであろう。

 以前 お母さんと二度ほど一緒に来たことはある。 それにしても 曲がりくねった街の中をよくぞ歩いたものだ しかもアパ-トの部屋まで上がって来たのだから 感動のあまり涙が浮かんできます。

それにしても 駅から家に戻り おばあちゃんに見つからずに頑張ったのですから奇跡に近いでしょう  よくぞ 道筋を覚えていました ありがとう

 

 実はこ゚の頃 ジュンの家では大変な騒ぎとなっていました。 親の目の前で子供が消えてしまった。オカルト遊びじゃあるまいし 前代未聞の出来事っです。

お母さんは店の前にへたり込んでしまい 沼田の兄さんと近所のおばさんが何を言っても放心状態です。なすすべがありません。

思い当たるところは全て当たりました。 まさか 小野田さんの処とは 誰一人思い起こす人はいない。名まえさえ口に出すものはない。

 ただ お母さんと沼田の兄さんは 「もしかしたら・・・」と 小野田さんの存在は気にかかるところですが 頑是ない子供がこんな大冒険をやる なんてことはテンから空想だに出来ないことでした。

話は小野田さんのアパ-トに戻ります。

ジュンは鉄棒に夢中です  おじさんは考え込んでしまいます。

電話をしてみるか--- でも 沼田が出たら 何というか?   さて どうする?

店からここまでの道順は大略決まっている。 此方から歩いていけば 迎えに来るであろう母親に会うに違いない    「ヨ――シ 帰るぞ---」*

ジュンは何故か帰るのを嫌がった それをなんとか納得させて 二人は手をつないで歩きだしたのです。ジュンはノロノロ、珍しく愚図るので抱っこをするしかないのでした。

とうとう顔見知りに出会うこともなく店につきました。

 「ジュンが戻ったぞ---」 大騒ぎです。

ジュンのお母さんは「ワ-」とか「ギャア-」とか叫んで走りよると やにわにジュンの頬っぺたを殴った

(それは無いよ---) ジュンはお母さんにとんでもない悪いことをしてしまった と半ば後悔していました  とに角遭ったら即「ごめんなさい」と言うつもりでいたのに 顔を見るなにビンタかよ? 僕の気持なんか 初めから全然お呼びじゃないのか・・・悔しいけど 笑っちゃ・・・いけないんだ。

 見ると お母さんは泣いて怒っています。   どうしよう?  困った。

だけど 僕、故意と小野田のおじさんとこに行ったのでは無いよ、気が付いたら着いていたんだから。 「何なのか 僕わかんない---」

 母は解ってくれるどころか ますます怒りますます泣くのでした

彼女はショックだった。まさか ヤッパリ 小野田さんとこに行っていたのか―――

お兄さんには 何と弁解したらいいか・・・

どんなにか 母親を虐めてしまったか  ジュンは「ごめんなさい ごめんなさい 」「もう二度としません 僕 お母さんの言いつけ通り頑張ります---  だから泣くのは止めて・・・」

「いいのよ いいのよ ゴメンナサイはお母さんの方なのだから―――」(本当に 私って母親失格だわ―――)

 

結局 彼女は多少の疚しさはありましたが 息子の優しさに助けられて めでたく再婚したのでした。

            おわり

*本文は去る三月のブログに手を

孫への遺書 四番「じゅんの家出」

(梗概)

 母親は 東京で協議離婚をすると 三歳のじゅんを連れて大阪の実家に戻りました

実家では生業の居酒屋を手伝い 常連客の小野田中年男と沼田青年の二人の男と懇意になりました

 母は沼田青年と結婚することに為り 未来の家族三人は遊園地に出かけた

途中 じゅん児童は姿を消失させ 小野田さんのアパ-トに現れました。

 子供の突然の行方不明事件で 警察・親・近所は大騒ぎ、その顛末です。

 

 (本文)

  じゅんの父親は 個人営業の仕出し屋をやっていました 十五の歳から勤め上げた親方ののれん分けでありました 出身が極端な貧乏であったせいか 少年は成人になっても 酒ギャンブルをはじめ遊びごとには疎い男であった。それに天性の腕の良さです。

 親方は青年をことのほか気に入り 自分の姪を娶せ店を持たせたのでした。

  若者は親方の期待に応えてくれました。朝は五時に起きて大釜に火を入れることから一日が始まり 明日の仕込みが整い包丁を納めるのは春夏秋冬を通じて夜中近かったのです。

家族三人の団欒の時間はない。金持ちのお嬢さん学校とは言え 一応は大学卒である妻には会社経理を任せ 水仕事は一切やろそうとはしないのでした

 妻は 商売用の弁当持参で 息子と近くの公園で多くの時間を会話もなしに過ごすのが日課だったのです。

 お別れの前日 家族三人は店を臨時休業として 横浜まで足を延ばし中華街で食事をしました。

 夜は 淳はお父さんとお風呂に入り、そして一緒に寝ました

 

  翌日は東京駅まで新幹線を見送ってくれました

  実家の居酒屋は この界隈では古株に属します  生前の父親は 商売仲間にも 酒飲み放浪者の間にも  お堅い“偏固“者と評判でありました。経歴も係累も全く噂にならない御仁でした。 世俗的には面白みのない男なのです。  なにせ 死んで分かったのですが この男には色っぽい女房もいるし そして二人の美人娘がいたのです。 この事実は世間を驚かせました  日陰の訳あり中年独身が通り相場だったのですから  女家族は客の前には出さなかったのも不思議ではありません。夫の死後 未亡人となった祖母は 滅茶苦茶に働きだしました

後家の踏ん張りと これはこれで常連客の人気となったのですが 居酒屋は常連客だけではない 自分の体力のこともあって 若い女の子を接客に雇い入れたのです。 ところが この女 若いのに水商売は大変な経験者だったのでした。

ど素人の俄か女将の酒場は お茶の子サイサイ。 女の子は慣れた口先で一週間ほど接客を見せてくれました  店内の流れもスム-ズになったと思いきや ど素人女将は 此処で玄人の女の子をクビにして周囲を驚かせたのです。  それでも一月分の給料をだして謝礼としています。、

 女将はプライドを見せたのはいいのですが 居酒屋は忽ち閑古鳥が鳴かんばかりの雰囲気となってしまったのでした。 年寄りの常連客の顔触れは相変わらずと言うところですが どうも あまりパットしない印象です。

 母親の困惑した表情を見て 出戻り娘が「私が店を手伝う・・・」

此れには 母親も学生の妹も「ダメダメ・」と首を振ったのですが 内心は「あの引っ込み思案の姉の変わりようにビックリしたのが本当の印象でした

 気の進まない女将を押し切って 「まあアルバイトとして頑張って呉れたら…」ぐらいにしか周囲は期待してなかったのですが  ところが このピンチ・ヒッタ-が大当たり

二十三歳の若さ 地元お嬢さん大学出身の才媛 気は優しくて美人 まるで 天性のホステスでした。。

 

ゼニ勘定はリ-ズナブル 雰囲気はアットホ-ム プロの街に咲いた素人の居酒屋です。常連客が増えました。

 あれから二年近くの時が流れました。こんな短い時間に 実にさまざまの人物と知り合いになりました。自分でも すっかり大人に変身してしまった自分自身に感動しているほどでした 静かだった結婚時代は 彼女には苦痛な時間であったのかもしれません。

 

 彼女は若い、二人の男に恋をしました。 一人は小野田のおじさん。 もう一人は沼田のお兄さんです。

 小野田のおじさんは ジュンが会いたいと思った時には不思議にやって来ます。

直ぐ公園です。鉄棒とサッカ-の練習です 幼稚園でしり上がりの出来るのは自分だけです。 皆の前でやって見せて 驚く顔を見るのは最高の気分です。

 沼田のお兄さんとは先日ホテルのディナ-ショウに行きました。お母さんも一緒です。どちらかと言えば お母さん好みのショウでした。涙を流さんばかりに喜ぶ母を見ているとジュンもつい嬉しくなります。

 

 お母さんが再婚することに為りまりました

相手は沼田の兄さんです。小野田のおじさんではありませんでした。

その夜 お母さんは「ジュンは 沼田のお兄さんのこと嫌いじゃないわよね?」と 

しつこい程何度も何度も同じことを聞くのです。僕の手をつかんで ジッと確かめる母の目があまりにも心配そうなので

「大丈夫だよ 僕お兄さん大好きだから・・・」と 元気づけたのに それでも お母さんは「お願い お願い お母さんの一生のお願い-----」

ジュンを 何時までも抱きしめているのでした。

 

 ジュンとお母さん沼田の兄さん三人は遊園地に行くことに為りました。

 その朝 約束の駅まで ジュンと母は半分走って急ぎました沼田の兄さんはすでに先に来ていて駅前で手を振っているのが遠くからも見えました。

「ほら お父さんよ  良かったわね---」

一寸戸惑っていると 「お母さんと どっちが速いか競争しようか?」

「ヨーイ ドン!」 母はジュンの手を放しました。 

 ジュンの姿は人混みの中を器用に縫っていくように見えました。日曜日の駅前は家族ずれでごった返しております

 お母さんはお兄さんと直ぐおしゃべりを始めています。 この時 ジュンは二人の前から忽然と消えてしまったのでした。

此処は以前にも何回も来ています 慣れているはずです。

「あら嫌だ こんな処で かくれんぼでもするつもりかしら?」

お母さんは軽く笑って お兄さんと話が弾んでいます。

「それにしてもまだ来ないわ?何してんのかしら?」

周囲をキョロキョロする。 嫌な予感がするのです。それは 沼田のお兄さんも同じです

 「ジュン ジュン」人ごみの中を探してみます。 いません

不安がつのってきます。悪いことを考えてしまいます。交通事故—乱暴に人をはねのけて「ジュン…」と大声に叫んでしまう

お母さんの頭の中は<真っ白>です。 沼田のお兄さんに任せておれない・・・

通り合わせの警察官に「子供がーーー、こどもがーーー」と まくし立てるけど 早口で意味がサッパリ解らない。

 「そうだ お婆ちゃんの処にもどったかもしれない---」

そうだ そうだ 今来た道を急いで引き返します 走って 走って 全力疾走です

-----それにしても どうして? やはり 小野田のおじさんのことなのか?

お母さんは そのことを考えざるを得ないのでした

 沼田のお兄さんも 後を追って走ります  <やはり 俺のことを避けているか----->

  所変わって 小野田のおじさんの家です。 親子の店からは1キロ程離れた古い木造二階のアパ-トです。

 何かがドアをトントン叩きます。小さな音なのでハッキリしません。 今日は勤めが休みなので まだ布団の中でマゴマゴしていたのでした  なんだろう---?  誰か来たのかな?  面倒臭いなあ---  しぶしぶ起きて「誰?」と 戸を開けると「なに これ?」  ビックッリ  信じられない

 二三歳の子供がこっちを見上げてニコニコしてるではないか、ジュンです。

「やあ---」と言った小父さんの声が心なしか幾分泣き節です。感動のあまり言葉にならない。

 実は 小野田さんは母親と沼田の兄貴との結婚話は耳にしておりました. 母親のことは別としてもジュンのことが気にかかり思案に沈んでいたところだったのです。

取りあえず「まあ 入れ入れ…」 急いで布団を上げバタバタ片付ると ジュンが来たときにはと用意してたチェリ-の缶詰を開けた。彼の好物である。

『よく来たなあ-? お母さんは後から来るのかい?』 それには答えず 美味い美味いと食べています。

 小野田のおじさんは学校給食の仕事をしています。 東京に残してきた父親と同じ匂いがします。 

二人は それから二時間ほど夢中で遊びました。部屋には 小さな鉄棒が組み立てております。 おじさんが ジュンが来たときのために買っておいたものです。

 遊びながらも どうも腑に落ちません

後から来るはずのお母さんが一向に姿を見せません。 なのに ジュン自身は一向に気にしている様子はないのです。何時もなら母親が一寸トイレに立ったぐらいでも後を追うくせに 。なんか変である。

確かめる思いで おじさんはため息交じりに「お母さん遅いね・・・」

「お母さん 来ないよ!」 驚くほど素っ気無い返事です。 えっ---そんな---

「じゃ---一人で来たの?」 「うん-」  そんなの 嘘っ

距離にしたら さしたる距離ではないかもしれない。 それでも大人の足では二十分はかかる。 三歳の子供いしたら大冒険ものであろう。

 以前 お母さんと二度ほど一緒に来たことはある。 それにしても 曲がりくねった街の中をよくぞ歩いたものだ しかもアパ-トの部屋まで上がって来たのだから 感動のあまり涙が浮かんできます。

それにしても 駅から家に戻り おばあちゃんに見つからずに頑張ったのですから奇跡に近いでしょう  よくぞ 道筋を覚えていました ありがとう

 

 実はこ゚の頃 ジュンの家では大変な騒ぎとなっていました。 親の目の前で子供が消えてしまった。オカルト遊びじゃあるまいし 前代未聞の出来事っです。

お母さんは店の前にへたり込んでしまい 沼田の兄さんと近所のおばさんが何を言っても放心状態です。なすすべがありません。

思い当たるところは全て当たりました。 まさか 小野田さんの処とは 誰一人思い起こす人はいない。名まえさえ口に出すものはない。

 ただ お母さんと沼田の兄さんは 「もしかしたら・・・」と 小野田さんの存在は気にかかるところですが 頑是ない子供がこんな大冒険をやる なんてことはテンから空想だに出来ないことでした。

話は小野田さんのアパ-トに戻ります。

ジュンは鉄棒に夢中です  おじさんは考え込んでしまいます。

電話をしてみるか--- でも 沼田が出たら 何というか?   さて どうする?

店からここまでの道順は大略決まっている。 此方から歩いていけば 迎えに来るであろう母親に会うに違いない    「ヨ――シ 帰るぞ---」*

ジュンは何故か帰るのを嫌がった それをなんとか納得させて 二人は手をつないで歩きだしたのです。ジュンはノロノロ、珍しく愚図るので抱っこをするしかないのでした。

とうとう顔見知りに出会うこともなく店につきました。

 「ジュンが戻ったぞ---」 大騒ぎです。

ジュンのお母さんは「ワ-」とか「ギャア-」とか叫んで走りよると やにわにジュンの頬っぺたを殴った

(それは無いよ---) ジュンはお母さんにとんでもない悪いことをしてしまった と半ば後悔していました  とに角遭ったら即「ごめんなさい」と言うつもりでいたのに 顔を見るなにビンタかよ? 僕の気持なんか 初めから全然お呼びじゃないのか・・・悔しいけど 笑っちゃ・・・いけないんだ。

 見ると お母さんは泣いて怒っています。   どうしよう?  困った。

だけど 僕、故意と小野田のおじさんとこに行ったのでは無いよ、気が付いたら着いていたんだから。 「何なのか 僕わかんない---」

 母は解ってくれるどころか ますます怒りますます泣くのでした

彼女はショックだった。まさか ヤッパリ 小野田さんとこに行っていたのか―――

お兄さんには 何と弁解したらいいか・・・

どんなにか 母親を虐めてしまったか  ジュンは「ごめんなさい ごめんなさい 」「もう二度としません 僕 お母さんの言いつけ通り頑張ります---  だから泣くのは止めて・・・」

「いいのよ いいのよ ゴメンナサイはお母さんの方なのだから―――」(本当に 私って母親失格だわ―――)

 

結局 彼女は多少の疚しさはありましたが 息子の優しさに助けられて めでたく再婚したのでした。

            おわり

*本文は去る三月のブログに手を

孫への遺書 四番「じゅんの家出」

(梗概)

 母親は 東京で協議離婚をすると 三歳のじゅんを連れて大阪の実家に戻りました

実家では生業の居酒屋を手伝い 常連客の小野田中年男と沼田青年の二人の男と懇意になりました

 母は沼田青年と結婚することに為り 未来の家族三人は遊園地に出かけた

途中 じゅん児童は姿を消失させ 小野田さんのアパ-トに現れました。

 子供の突然の行方不明事件で 警察・親・近所は大騒ぎ、その顛末です。

 

 (本文)

  じゅんの父親は 個人営業の仕出し屋をやっていました 十五の歳から勤め上げた親方ののれん分けでありました 出身が極端な貧乏であったせいか 少年は成人になっても 酒ギャンブルをはじめ遊びごとには疎い男であった。それに天性の腕の良さです。

 親方は青年をことのほか気に入り 自分の姪を娶せ店を持たせたのでした。

  若者は親方の期待に応えてくれました。朝は五時に起きて大釜に火を入れることから一日が始まり 明日の仕込みが整い包丁を納めるのは春夏秋冬を通じて夜中近かったのです。

家族三人の団欒の時間はない。金持ちのお嬢さん学校とは言え 一応は大学卒である妻には会社経理を任せ 水仕事は一切やろそうとはしないのでした

 妻は 商売用の弁当持参で 息子と近くの公園で多くの時間を会話もなしに過ごすのが日課だったのです。

 お別れの前日 家族三人は店を臨時休業として 横浜まで足を延ばし中華街で食事をしました。

 夜は 淳はお父さんとお風呂に入り、そして一緒に寝ました

 

  翌日は東京駅まで新幹線を見送ってくれました

  実家の居酒屋は この界隈では古株に属します  生前の父親は 商売仲間にも 酒飲み放浪者の間にも  お堅い“偏固“者と評判でありました。経歴も係累も全く噂にならない御仁でした。 世俗的には面白みのない男なのです。  なにせ 死んで分かったのですが この男には色っぽい女房もいるし そして二人の美人娘がいたのです。 この事実は世間を驚かせました  日陰の訳あり中年独身が通り相場だったのですから  女家族は客の前には出さなかったのも不思議ではありません。夫の死後 未亡人となった祖母は 滅茶苦茶に働きだしました

後家の踏ん張りと これはこれで常連客の人気となったのですが 居酒屋は常連客だけではない 自分の体力のこともあって 若い女の子を接客に雇い入れたのです。 ところが この女 若いのに水商売は大変な経験者だったのでした。

ど素人の俄か女将の酒場は お茶の子サイサイ。 女の子は慣れた口先で一週間ほど接客を見せてくれました  店内の流れもスム-ズになったと思いきや ど素人女将は 此処で玄人の女の子をクビにして周囲を驚かせたのです。  それでも一月分の給料をだして謝礼としています。、

 女将はプライドを見せたのはいいのですが 居酒屋は忽ち閑古鳥が鳴かんばかりの雰囲気となってしまったのでした。 年寄りの常連客の顔触れは相変わらずと言うところですが どうも あまりパットしない印象です。

 母親の困惑した表情を見て 出戻り娘が「私が店を手伝う・・・」

此れには 母親も学生の妹も「ダメダメ・」と首を振ったのですが 内心は「あの引っ込み思案の姉の変わりようにビックリしたのが本当の印象でした

 気の進まない女将を押し切って 「まあアルバイトとして頑張って呉れたら…」ぐらいにしか周囲は期待してなかったのですが  ところが このピンチ・ヒッタ-が大当たり

二十三歳の若さ 地元お嬢さん大学出身の才媛 気は優しくて美人 まるで 天性のホステスでした。。

 

ゼニ勘定はリ-ズナブル 雰囲気はアットホ-ム プロの街に咲いた素人の居酒屋です。常連客が増えました。

 あれから二年近くの時が流れました。こんな短い時間に 実にさまざまの人物と知り合いになりました。自分でも すっかり大人に変身してしまった自分自身に感動しているほどでした 静かだった結婚時代は 彼女には苦痛な時間であったのかもしれません。

 

 彼女は若い、二人の男に恋をしました。 一人は小野田のおじさん。 もう一人は沼田のお兄さんです。

 小野田のおじさんは ジュンが会いたいと思った時には不思議にやって来ます。

直ぐ公園です。鉄棒とサッカ-の練習です 幼稚園でしり上がりの出来るのは自分だけです。 皆の前でやって見せて 驚く顔を見るのは最高の気分です。

 沼田のお兄さんとは先日ホテルのディナ-ショウに行きました。お母さんも一緒です。どちらかと言えば お母さん好みのショウでした。涙を流さんばかりに喜ぶ母を見ているとジュンもつい嬉しくなります。

 

 お母さんが再婚することに為りまりました

相手は沼田の兄さんです。小野田のおじさんではありませんでした。

その夜 お母さんは「ジュンは 沼田のお兄さんのこと嫌いじゃないわよね?」と 

しつこい程何度も何度も同じことを聞くのです。僕の手をつかんで ジッと確かめる母の目があまりにも心配そうなので

「大丈夫だよ 僕お兄さん大好きだから・・・」と 元気づけたのに それでも お母さんは「お願い お願い お母さんの一生のお願い-----」

ジュンを 何時までも抱きしめているのでした。

 

 ジュンとお母さん沼田の兄さん三人は遊園地に行くことに為りました。

 その朝 約束の駅まで ジュンと母は半分走って急ぎました沼田の兄さんはすでに先に来ていて駅前で手を振っているのが遠くからも見えました。

「ほら お父さんよ  良かったわね---」

一寸戸惑っていると 「お母さんと どっちが速いか競争しようか?」

「ヨーイ ドン!」 母はジュンの手を放しました。 

 ジュンの姿は人混みの中を器用に縫っていくように見えました。日曜日の駅前は家族ずれでごった返しております

 お母さんはお兄さんと直ぐおしゃべりを始めています。 この時 ジュンは二人の前から忽然と消えてしまったのでした。

此処は以前にも何回も来ています 慣れているはずです。

「あら嫌だ こんな処で かくれんぼでもするつもりかしら?」

お母さんは軽く笑って お兄さんと話が弾んでいます。

「それにしてもまだ来ないわ?何してんのかしら?」

周囲をキョロキョロする。 嫌な予感がするのです。それは 沼田のお兄さんも同じです

 「ジュン ジュン」人ごみの中を探してみます。 いません

不安がつのってきます。悪いことを考えてしまいます。交通事故—乱暴に人をはねのけて「ジュン…」と大声に叫んでしまう

お母さんの頭の中は<真っ白>です。 沼田のお兄さんに任せておれない・・・

通り合わせの警察官に「子供がーーー、こどもがーーー」と まくし立てるけど 早口で意味がサッパリ解らない。

 「そうだ お婆ちゃんの処にもどったかもしれない---」

そうだ そうだ 今来た道を急いで引き返します 走って 走って 全力疾走です

-----それにしても どうして? やはり 小野田のおじさんのことなのか?

お母さんは そのことを考えざるを得ないのでした

 沼田のお兄さんも 後を追って走ります  <やはり 俺のことを避けているか----->

  所変わって 小野田のおじさんの家です。 親子の店からは1キロ程離れた古い木造二階のアパ-トです。

 何かがドアをトントン叩きます。小さな音なのでハッキリしません。 今日は勤めが休みなので まだ布団の中でマゴマゴしていたのでした  なんだろう---?  誰か来たのかな?  面倒臭いなあ---  しぶしぶ起きて「誰?」と 戸を開けると「なに これ?」  ビックッリ  信じられない

 二三歳の子供がこっちを見上げてニコニコしてるではないか、ジュンです。

「やあ---」と言った小父さんの声が心なしか幾分泣き節です。感動のあまり言葉にならない。

 実は 小野田さんは母親と沼田の兄貴との結婚話は耳にしておりました. 母親のことは別としてもジュンのことが気にかかり思案に沈んでいたところだったのです。

取りあえず「まあ 入れ入れ…」 急いで布団を上げバタバタ片付ると ジュンが来たときにはと用意してたチェリ-の缶詰を開けた。彼の好物である。

『よく来たなあ-? お母さんは後から来るのかい?』 それには答えず 美味い美味いと食べています。

 小野田のおじさんは学校給食の仕事をしています。 東京に残してきた父親と同じ匂いがします。 

二人は それから二時間ほど夢中で遊びました。部屋には 小さな鉄棒が組み立てております。 おじさんが ジュンが来たときのために買っておいたものです。

 遊びながらも どうも腑に落ちません

後から来るはずのお母さんが一向に姿を見せません。 なのに ジュン自身は一向に気にしている様子はないのです。何時もなら母親が一寸トイレに立ったぐらいでも後を追うくせに 。なんか変である。

確かめる思いで おじさんはため息交じりに「お母さん遅いね・・・」

「お母さん 来ないよ!」 驚くほど素っ気無い返事です。 えっ---そんな---

「じゃ---一人で来たの?」 「うん-」  そんなの 嘘っ

距離にしたら さしたる距離ではないかもしれない。 それでも大人の足では二十分はかかる。 三歳の子供いしたら大冒険ものであろう。

 以前 お母さんと二度ほど一緒に来たことはある。 それにしても 曲がりくねった街の中をよくぞ歩いたものだ しかもアパ-トの部屋まで上がって来たのだから 感動のあまり涙が浮かんできます。

それにしても 駅から家に戻り おばあちゃんに見つからずに頑張ったのですから奇跡に近いでしょう  よくぞ 道筋を覚えていました ありがとう

 

 実はこ゚の頃 ジュンの家では大変な騒ぎとなっていました。 親の目の前で子供が消えてしまった。オカルト遊びじゃあるまいし 前代未聞の出来事っです。

お母さんは店の前にへたり込んでしまい 沼田の兄さんと近所のおばさんが何を言っても放心状態です。なすすべがありません。

思い当たるところは全て当たりました。 まさか 小野田さんの処とは 誰一人思い起こす人はいない。名まえさえ口に出すものはない。

 ただ お母さんと沼田の兄さんは 「もしかしたら・・・」と 小野田さんの存在は気にかかるところですが 頑是ない子供がこんな大冒険をやる なんてことはテンから空想だに出来ないことでした。

話は小野田さんのアパ-トに戻ります。

ジュンは鉄棒に夢中です  おじさんは考え込んでしまいます。

電話をしてみるか--- でも 沼田が出たら 何というか?   さて どうする?

店からここまでの道順は大略決まっている。 此方から歩いていけば 迎えに来るであろう母親に会うに違いない    「ヨ――シ 帰るぞ---」*

ジュンは何故か帰るのを嫌がった それをなんとか納得させて 二人は手をつないで歩きだしたのです。ジュンはノロノロ、珍しく愚図るので抱っこをするしかないのでした。

とうとう顔見知りに出会うこともなく店につきました。

 「ジュンが戻ったぞ---」 大騒ぎです。

ジュンのお母さんは「ワ-」とか「ギャア-」とか叫んで走りよると やにわにジュンの頬っぺたを殴った

(それは無いよ---) ジュンはお母さんにとんでもない悪いことをしてしまった と半ば後悔していました  とに角遭ったら即「ごめんなさい」と言うつもりでいたのに 顔を見るなにビンタかよ? 僕の気持なんか 初めから全然お呼びじゃないのか・・・悔しいけど 笑っちゃ・・・いけないんだ。

 見ると お母さんは泣いて怒っています。   どうしよう?  困った。

だけど 僕、故意と小野田のおじさんとこに行ったのでは無いよ、気が付いたら着いていたんだから。 「何なのか 僕わかんない---」

 母は解ってくれるどころか ますます怒りますます泣くのでした

彼女はショックだった。まさか ヤッパリ 小野田さんとこに行っていたのか―――

お兄さんには 何と弁解したらいいか・・・

どんなにか 母親を虐めてしまったか  ジュンは「ごめんなさい ごめんなさい 」「もう二度としません 僕 お母さんの言いつけ通り頑張ります---  だから泣くのは止めて・・・」

「いいのよ いいのよ ゴメンナサイはお母さんの方なのだから―――」(本当に 私って母親失格だわ―――)

 

結局 彼女は多少の疚しさはありましたが 息子の優しさに助けられて めでたく再婚したのでした。

            おわり

*本文は去る三月のブログに手を

孫への遺書 四番「じゅんの家出」
(梗概)
 母親は 東京で協議離婚をすると 三歳のじゅんを連れて大阪の実家に戻りました
実家では生業の居酒屋を手伝い 常連客の小野田中年男と沼田青年の二人の男と懇意になりました
 母は沼田青年と結婚することに為り 未来の家族三人は遊園地に出かけた
途中 じゅん児童は姿を消失させ 小野田さんのアパ-トに現れました。
 子供の突然の行方不明事件で 警察・親・近所は大騒ぎ、その顛末です。

 (本文)
  じゅんの父親は 個人営業の仕出し屋をやっていました 十五の歳から勤め上げた親方ののれん分けでありました 出身が極端な貧乏であったせいか 少年は成人になっても 酒ギャンブルをはじめ遊びごとには疎い男であった。それに天性の腕の良さです。
 親方は青年をことのほか気に入り 自分の姪を娶せ店を持たせたのでした。
  若者は親方の期待に応えてくれました。朝は五時に起きて大釜に火を入れることから一日が始まり 明日の仕込みが整い包丁を納めるのは春夏秋冬を通じて夜中近かったのです。
家族三人の団欒の時間はない。金持ちのお嬢さん学校とは言え 一応は大学卒である妻には会社経理を任せ 水仕事は一切やろそうとはしないのでした
 妻は 商売用の弁当持参で 息子と近くの公園で多くの時間を会話もなしに過ごすのが日課だったのです。
 お別れの前日 家族三人は店を臨時休業として 横浜まで足を延ばし中華街で食事をしました。
 夜は 淳はお父さんとお風呂に入り、そして一緒に寝ました

  翌日は東京駅まで新幹線を見送ってくれました
  実家の居酒屋は この界隈では古株に属します  生前の父親は 商売仲間にも 酒飲み放浪者の間にも  お堅い“偏固“者と評判でありました。経歴も係累も全く噂にならない御仁でした。 世俗的には面白みのない男なのです。  なにせ 死んで分かったのですが この男には色っぽい女房もいるし そして二人の美人娘がいたのです。 この事実は世間を驚かせました  日陰の訳あり中年独身が通り相場だったのですから  女家族は客の前には出さなかったのも不思議ではありません。夫の死後 未亡人となった祖母は 滅茶苦茶に働きだしました
後家の踏ん張りと これはこれで常連客の人気となったのですが 居酒屋は常連客だけではない 自分の体力のこともあって 若い女の子を接客に雇い入れたのです。 ところが この女 若いのに水商売は大変な経験者だったのでした。
ど素人の俄か女将の酒場は お茶の子サイサイ。 女の子は慣れた口先で一週間ほど接客を見せてくれました  店内の流れもスム-ズになったと思いきや ど素人女将は 此処で玄人の女の子をクビにして周囲を驚かせたのです。  それでも一月分の給料をだして謝礼としています。、
 女将はプライドを見せたのはいいのですが 居酒屋は忽ち閑古鳥が鳴かんばかりの雰囲気となってしまったのでした。 年寄りの常連客の顔触れは相変わらずと言うところですが どうも あまりパットしない印象です。
 母親の困惑した表情を見て 出戻り娘が「私が店を手伝う・・・」
此れには 母親も学生の妹も「ダメダメ・」と首を振ったのですが 内心は「あの引っ込み思案の姉の変わりようにビックリしたのが本当の印象でした
 気の進まない女将を押し切って 「まあアルバイトとして頑張って呉れたら…」ぐらいにしか周囲は期待してなかったのですが  ところが このピンチ・ヒッタ-が大当たり
二十三歳の若さ 地元お嬢さん大学出身の才媛 気は優しくて美人 まるで 天性のホステスでした。。

ゼニ勘定はリ-ズナブル 雰囲気はアットホ-ム プロの街に咲いた素人の居酒屋です。常連客が増えました。
 あれから二年近くの時が流れました。こんな短い時間に 実にさまざまの人物と知り合いになりました。自分でも すっかり大人に変身してしまった自分自身に感動しているほどでした 静かだった結婚時代は 彼女には苦痛な時間であったのかもしれません。

 彼女は若い、二人の男に恋をしました。 一人は小野田のおじさん。 もう一人は沼田のお兄さんです。
 小野田のおじさんは ジュンが会いたいと思った時には不思議にやって来ます。
直ぐ公園です。鉄棒とサッカ-の練習です 幼稚園でしり上がりの出来るのは自分だけです。 皆の前でやって見せて 驚く顔を見るのは最高の気分です。
 沼田のお兄さんとは先日ホテルのディナ-ショウに行きました。お母さんも一緒です。どちらかと言えば お母さん好みのショウでした。涙を流さんばかりに喜ぶ母を見ているとジュンもつい嬉しくなります。
 
 お母さんが再婚することに為りまりました
相手は沼田の兄さんです。小野田のおじさんではありませんでした。
その夜 お母さんは「ジュンは 沼田のお兄さんのこと嫌いじゃないわよね?」と 
しつこい程何度も何度も同じことを聞くのです。僕の手をつかんで ジッと確かめる母の目があまりにも心配そうなので
「大丈夫だよ 僕お兄さん大好きだから・・・」と 元気づけたのに それでも お母さんは「お願い お願い お母さんの一生のお願い-----」
ジュンを 何時までも抱きしめているのでした。

 ジュンとお母さん沼田の兄さん三人は遊園地に行くことに為りました。
 その朝 約束の駅まで ジュンと母は半分走って急ぎました沼田の兄さんはすでに先に来ていて駅前で手を振っているのが遠くからも見えました。
「ほら お父さんよ  良かったわね---」
一寸戸惑っていると 「お母さんと どっちが速いか競争しようか?」
「ヨーイ ドン!」 母はジュンの手を放しました。 
 ジュンの姿は人混みの中を器用に縫っていくように見えました。日曜日の駅前は家族ずれでごった返しております
 お母さんはお兄さんと直ぐおしゃべりを始めています。 この時 ジュンは二人の前から忽然と消えてしまったのでした。
此処は以前にも何回も来ています 慣れているはずです。
「あら嫌だ こんな処で かくれんぼでもするつもりかしら?」
お母さんは軽く笑って お兄さんと話が弾んでいます。
「それにしてもまだ来ないわ?何してんのかしら?」
周囲をキョロキョロする。 嫌な予感がするのです。それは 沼田のお兄さんも同じです
 「ジュン ジュン」人ごみの中を探してみます。 いません
不安がつのってきます。悪いことを考えてしまいます。交通事故—乱暴に人をはねのけて「ジュン…」と大声に叫んでしまう
お母さんの頭の中は<真っ白>です。 沼田のお兄さんに任せておれない・・・
通り合わせの警察官に「子供がーーー、こどもがーーー」と まくし立てるけど 早口で意味がサッパリ解らない。
 「そうだ お婆ちゃんの処にもどったかもしれない---」
そうだ そうだ 今来た道を急いで引き返します 走って 走って 全力疾走です
-----それにしても どうして? やはり 小野田のおじさんのことなのか?
お母さんは そのことを考えざるを得ないのでした
 沼田のお兄さんも 後を追って走ります  <やはり 俺のことを避けているか----->
  所変わって 小野田のおじさんの家です。 親子の店からは1キロ程離れた古い木造二階のアパ-トです。
 何かがドアをトントン叩きます。小さな音なのでハッキリしません。 今日は勤めが休みなので まだ布団の中でマゴマゴしていたのでした  なんだろう---?  誰か来たのかな?  面倒臭いなあ---  しぶしぶ起きて「誰?」と 戸を開けると「なに これ?」  ビックッリ  信じられない
 二三歳の子供がこっちを見上げてニコニコしてるではないか、ジュンです。
「やあ---」と言った小父さんの声が心なしか幾分泣き節です。感動のあまり言葉にならない。
 実は 小野田さんは母親と沼田の兄貴との結婚話は耳にしておりました. 母親のことは別としてもジュンのことが気にかかり思案に沈んでいたところだったのです。
取りあえず「まあ 入れ入れ…」 急いで布団を上げバタバタ片付ると ジュンが来たときにはと用意してたチェリ-の缶詰を開けた。彼の好物である。
『よく来たなあ-? お母さんは後から来るのかい?』 それには答えず 美味い美味いと食べています。
 小野田のおじさんは学校給食の仕事をしています。 東京に残してきた父親と同じ匂いがします。 
二人は それから二時間ほど夢中で遊びました。部屋には 小さな鉄棒が組み立てております。 おじさんが ジュンが来たときのために買っておいたものです。
 遊びながらも どうも腑に落ちません
後から来るはずのお母さんが一向に姿を見せません。 なのに ジュン自身は一向に気にしている様子はないのです。何時もなら母親が一寸トイレに立ったぐらいでも後を追うくせに 。なんか変である。
確かめる思いで おじさんはため息交じりに「お母さん遅いね・・・」
「お母さん 来ないよ!」 驚くほど素っ気無い返事です。 えっ---そんな---
「じゃ---一人で来たの?」 「うん-」  そんなの 嘘っ
距離にしたら さしたる距離ではないかもしれない。 それでも大人の足では二十分はかかる。 三歳の子供いしたら大冒険ものであろう。
 以前 お母さんと二度ほど一緒に来たことはある。 それにしても 曲がりくねった街の中をよくぞ歩いたものだ しかもアパ-トの部屋まで上がって来たのだから 感動のあまり涙が浮かんできます。
それにしても 駅から家に戻り おばあちゃんに見つからずに頑張ったのですから奇跡に近いでしょう  よくぞ 道筋を覚えていました ありがとう

 実はこ゚の頃 ジュンの家では大変な騒ぎとなっていました。 親の目の前で子供が消えてしまった。オカルト遊びじゃあるまいし 前代未聞の出来事っです。
お母さんは店の前にへたり込んでしまい 沼田の兄さんと近所のおばさんが何を言っても放心状態です。なすすべがありません。
思い当たるところは全て当たりました。 まさか 小野田さんの処とは 誰一人思い起こす人はいない。名まえさえ口に出すものはない。
 ただ お母さんと沼田の兄さんは 「もしかしたら・・・」と 小野田さんの存在は気にかかるところですが 頑是ない子供がこんな大冒険をやる なんてことはテンから空想だに出来ないことでした。
話は小野田さんのアパ-トに戻ります。
ジュンは鉄棒に夢中です  おじさんは考え込んでしまいます。
電話をしてみるか--- でも 沼田が出たら 何というか?   さて どうする?
店からここまでの道順は大略決まっている。 此方から歩いていけば 迎えに来るであろう母親に会うに違いない    「ヨ――シ 帰るぞ---」*
ジュンは何故か帰るのを嫌がった それをなんとか納得させて 二人は手をつないで歩きだしたのです。ジュンはノロノロ、珍しく愚図るので抱っこをするしかないのでした。
とうとう顔見知りに出会うこともなく店につきました。
 「ジュンが戻ったぞ---」 大騒ぎです。
ジュンのお母さんは「ワ-」とか「ギャア-」とか叫んで走りよると やにわにジュンの頬っぺたを殴った
(それは無いよ---) ジュンはお母さんにとんでもない悪いことをしてしまった と半ば後悔していました  とに角遭ったら即「ごめんなさい」と言うつもりでいたのに 顔を見るなにビンタかよ? 僕の気持なんか 初めから全然お呼びじゃないのか・・・悔しいけど 笑っちゃ・・・いけないんだ。
 見ると お母さんは泣いて怒っています。   どうしよう?  困った。
だけど 僕、故意と小野田のおじさんとこに行ったのでは無いよ、気が付いたら着いていたんだから。 「何なのか 僕わかんない---」
 母は解ってくれるどころか ますます怒りますます泣くのでした
彼女はショックだった。まさか ヤッパリ 小野田さんとこに行っていたのか―――
お兄さんには 何と弁解したらいいか・・・
どんなにか 母親を虐めてしまったか  ジュンは「ごめんなさい ごめんなさい 」「もう二度としません 僕 お母さんの言いつけ通り頑張ります---  だから泣くのは止めて・・・」
「いいのよ いいのよ ゴメンナサイはお母さんの方なのだから―――」(本当に 私って母親失格だわ―――)

結局 彼女は多少の疚しさはありましたが 息子の優しさに助けられて めでたく再婚したのでした。
            おわり
*本文は去る三月のブログに手を

孫への遺書 四番「じゅんの家出」

(梗概)

 母親は 東京で協議離婚をすると 三歳のじゅんを連れて大阪の実家に戻りました

実家では生業の居酒屋を手伝い 常連客の小野田中年男と沼田青年の二人の男と懇意になりました

 母は沼田青年と結婚することに為り 未来の家族三人は遊園地に出かけた

途中 じゅん児童は姿を消失させ 小野田さんのアパ-トに現れました。

 子供の突然の行方不明事件で 警察・親・近所は大騒ぎ、その顛末です。

 

 (本文)

  じゅんの父親は 個人営業の仕出し屋をやっていました 十五の歳から勤め上げた親方ののれん分けでありました 出身が極端な貧乏であったせいか 少年は成人になっても 酒ギャンブルをはじめ遊びごとには疎い男であった。それに天性の腕の良さです。

 親方は青年をことのほか気に入り 自分の姪を娶せ店を持たせたのでした。

  若者は親方の期待に応えてくれました。朝は五時に起きて大釜に火を入れることから一日が始まり 明日の仕込みが整い包丁を納めるのは春夏秋冬を通じて夜中近かったのです。

家族三人の団欒の時間はない。金持ちのお嬢さん学校とは言え 一応は大学卒である妻には会社経理を任せ 水仕事は一切やろそうとはしないのでした

 妻は 商売用の弁当持参で 息子と近くの公園で多くの時間を会話もなしに過ごすのが日課だったのです。

 お別れの前日 家族三人は店を臨時休業として 横浜まで足を延ばし中華街で食事をしました。

 夜は 淳はお父さんとお風呂に入り、そして一緒に寝ました

 

  翌日は東京駅まで新幹線を見送ってくれました

  実家の居酒屋は この界隈では古株に属します  生前の父親は 商売仲間にも 酒飲み放浪者の間にも  お堅い“偏固“者と評判でありました。経歴も係累も全く噂にならない御仁でした。 世俗的には面白みのない男なのです。  なにせ 死んで分かったのですが この男には色っぽい女房もいるし そして二人の美人娘がいたのです。 この事実は世間を驚かせました  日陰の訳あり中年独身が通り相場だったのですから  女家族は客の前には出さなかったのも不思議ではありません。夫の死後 未亡人となった祖母は 滅茶苦茶に働きだしました

後家の踏ん張りと これはこれで常連客の人気となったのですが 居酒屋は常連客だけではない 自分の体力のこともあって 若い女の子を接客に雇い入れたのです。 ところが この女 若いのに水商売は大変な経験者だったのでした。

ど素人の俄か女将の酒場は お茶の子サイサイ。 女の子は慣れた口先で一週間ほど接客を見せてくれました  店内の流れもスム-ズになったと思いきや ど素人女将は 此処で玄人の女の子をクビにして周囲を驚かせたのです。  それでも一月分の給料をだして謝礼としています。、

 女将はプライドを見せたのはいいのですが 居酒屋は忽ち閑古鳥が鳴かんばかりの雰囲気となってしまったのでした。 年寄りの常連客の顔触れは相変わらずと言うところですが どうも あまりパットしない印象です。

 母親の困惑した表情を見て 出戻り娘が「私が店を手伝う・・・」

此れには 母親も学生の妹も「ダメダメ・」と首を振ったのですが 内心は「あの引っ込み思案の姉の変わりようにビックリしたのが本当の印象でした

 気の進まない女将を押し切って 「まあアルバイトとして頑張って呉れたら…」ぐらいにしか周囲は期待してなかったのですが  ところが このピンチ・ヒッタ-が大当たり

二十三歳の若さ 地元お嬢さん大学出身の才媛 気は優しくて美人 まるで 天性のホステスでした。。

 

ゼニ勘定はリ-ズナブル 雰囲気はアットホ-ム プロの街に咲いた素人の居酒屋です。常連客が増えました。

 あれから二年近くの時が流れました。こんな短い時間に 実にさまざまの人物と知り合いになりました。自分でも すっかり大人に変身してしまった自分自身に感動しているほどでした 静かだった結婚時代は 彼女には苦痛な時間であったのかもしれません。

 

 彼女は若い、二人の男に恋をしました。 一人は小野田のおじさん。 もう一人は沼田のお兄さんです。

 小野田のおじさんは ジュンが会いたいと思った時には不思議にやって来ます。

直ぐ公園です。鉄棒とサッカ-の練習です 幼稚園でしり上がりの出来るのは自分だけです。 皆の前でやって見せて 驚く顔を見るのは最高の気分です。

 沼田のお兄さんとは先日ホテルのディナ-ショウに行きました。お母さんも一緒です。どちらかと言えば お母さん好みのショウでした。涙を流さんばかりに喜ぶ母を見ているとジュンもつい嬉しくなります。

 

 お母さんが再婚することに為りまりました

相手は沼田の兄さんです。小野田のおじさんではありませんでした。

その夜 お母さんは「ジュンは 沼田のお兄さんのこと嫌いじゃないわよね?」と 

しつこい程何度も何度も同じことを聞くのです。僕の手をつかんで ジッと確かめる母の目があまりにも心配そうなので

「大丈夫だよ 僕お兄さん大好きだから・・・」と 元気づけたのに それでも お母さんは「お願い お願い お母さんの一生のお願い-----」

ジュンを 何時までも抱きしめているのでした。

 

 ジュンとお母さん沼田の兄さん三人は遊園地に行くことに為りました。

 その朝 約束の駅まで ジュンと母は半分走って急ぎました沼田の兄さんはすでに先に来ていて駅前で手を振っているのが遠くからも見えました。

「ほら お父さんよ  良かったわね---」

一寸戸惑っていると 「お母さんと どっちが速いか競争しようか?」

「ヨーイ ドン!」 母はジュンの手を放しました。 

 ジュンの姿は人混みの中を器用に縫っていくように見えました。日曜日の駅前は家族ずれでごった返しております

 お母さんはお兄さんと直ぐおしゃべりを始めています。 この時 ジュンは二人の前から忽然と消えてしまったのでした。

此処は以前にも何回も来ています 慣れているはずです。

「あら嫌だ こんな処で かくれんぼでもするつもりかしら?」

お母さんは軽く笑って お兄さんと話が弾んでいます。

「それにしてもまだ来ないわ?何してんのかしら?」

周囲をキョロキョロする。 嫌な予感がするのです。それは 沼田のお兄さんも同じです

 「ジュン ジュン」人ごみの中を探してみます。 いません

不安がつのってきます。悪いことを考えてしまいます。交通事故—乱暴に人をはねのけて「ジュン…」と大声に叫んでしまう

お母さんの頭の中は<真っ白>です。 沼田のお兄さんに任せておれない・・・

通り合わせの警察官に「子供がーーー、こどもがーーー」と まくし立てるけど 早口で意味がサッパリ解らない。

 「そうだ お婆ちゃんの処にもどったかもしれない---」

そうだ そうだ 今来た道を急いで引き返します 走って 走って 全力疾走です

-----それにしても どうして? やはり 小野田のおじさんのことなのか?

お母さんは そのことを考えざるを得ないのでした

 沼田のお兄さんも 後を追って走ります  <やはり 俺のことを避けているか----->

  所変わって 小野田のおじさんの家です。 親子の店からは1キロ程離れた古い木造二階のアパ-トです。

 何かがドアをトントン叩きます。小さな音なのでハッキリしません。 今日は勤めが休みなので まだ布団の中でマゴマゴしていたのでした  なんだろう---?  誰か来たのかな?  面倒臭いなあ---  しぶしぶ起きて「誰?」と 戸を開けると「なに これ?」  ビックッリ  信じられない

 二三歳の子供がこっちを見上げてニコニコしてるではないか、ジュンです。

「やあ---」と言った小父さんの声が心なしか幾分泣き節です。感動のあまり言葉にならない。

 実は 小野田さんは母親と沼田の兄貴との結婚話は耳にしておりました. 母親のことは別としてもジュンのことが気にかかり思案に沈んでいたところだったのです。

取りあえず「まあ 入れ入れ…」 急いで布団を上げバタバタ片付ると ジュンが来たときにはと用意してたチェリ-の缶詰を開けた。彼の好物である。

『よく来たなあ-? お母さんは後から来るのかい?』 それには答えず 美味い美味いと食べています。

 小野田のおじさんは学校給食の仕事をしています。 東京に残してきた父親と同じ匂いがします。 

二人は それから二時間ほど夢中で遊びました。部屋には 小さな鉄棒が組み立てております。 おじさんが ジュンが来たときのために買っておいたものです。

 遊びながらも どうも腑に落ちません

後から来るはずのお母さんが一向に姿を見せません。 なのに ジュン自身は一向に気にしている様子はないのです。何時もなら母親が一寸トイレに立ったぐらいでも後を追うくせに 。なんか変である。

確かめる思いで おじさんはため息交じりに「お母さん遅いね・・・」

「お母さん 来ないよ!」 驚くほど素っ気無い返事です。 えっ---そんな---

「じゃ---一人で来たの?」 「うん-」  そんなの 嘘っ

距離にしたら さしたる距離ではないかもしれない。 それでも大人の足では二十分はかかる。 三歳の子供いしたら大冒険ものであろう。

 以前 お母さんと二度ほど一緒に来たことはある。 それにしても 曲がりくねった街の中をよくぞ歩いたものだ しかもアパ-トの部屋まで上がって来たのだから 感動のあまり涙が浮かんできます。

それにしても 駅から家に戻り おばあちゃんに見つからずに頑張ったのですから奇跡に近いでしょう  よくぞ 道筋を覚えていました ありがとう

 

 実はこ゚の頃 ジュンの家では大変な騒ぎとなっていました。 親の目の前で子供が消えてしまった。オカルト遊びじゃあるまいし 前代未聞の出来事っです。

お母さんは店の前にへたり込んでしまい 沼田の兄さんと近所のおばさんが何を言っても放心状態です。なすすべがありません。

思い当たるところは全て当たりました。 まさか 小野田さんの処とは 誰一人思い起こす人はいない。名まえさえ口に出すものはない。

 ただ お母さんと沼田の兄さんは 「もしかしたら・・・」と 小野田さんの存在は気にかかるところですが 頑是ない子供がこんな大冒険をやる なんてことはテンから空想だに出来ないことでした。

話は小野田さんのアパ-トに戻ります。

ジュンは鉄棒に夢中です  おじさんは考え込んでしまいます。

電話をしてみるか--- でも 沼田が出たら 何というか?   さて どうする?

店からここまでの道順は大略決まっている。 此方から歩いていけば 迎えに来るであろう母親に会うに違いない    「ヨ――シ 帰るぞ---」*

ジュンは何故か帰るのを嫌がった それをなんとか納得させて 二人は手をつないで歩きだしたのです。ジュンはノロノロ、珍しく愚図るので抱っこをするしかないのでした。

とうとう顔見知りに出会うこともなく店につきました。

 「ジュンが戻ったぞ---」 大騒ぎです。

ジュンのお母さんは「ワ-」とか「ギャア-」とか叫んで走りよると やにわにジュンの頬っぺたを殴った

(それは無いよ---) ジュンはお母さんにとんでもない悪いことをしてしまった と半ば後悔していました  とに角遭ったら即「ごめんなさい」と言うつもりでいたのに 顔を見るなにビンタかよ? 僕の気持なんか 初めから全然お呼びじゃないのか・・・悔しいけど 笑っちゃ・・・いけないんだ。

 見ると お母さんは泣いて怒っています。   どうしよう?  困った。

だけど 僕、故意と小野田のおじさんとこに行ったのでは無いよ、気が付いたら着いていたんだから。 「何なのか 僕わかんない---」

 母は解ってくれるどころか ますます怒りますます泣くのでした

彼女はショックだった。まさか ヤッパリ 小野田さんとこに行っていたのか―――

お兄さんには 何と弁解したらいいか・・・

どんなにか 母親を虐めてしまったか  ジュンは「ごめんなさい ごめんなさい 」「もう二度としません 僕 お母さんの言いつけ通り頑張ります---  だから泣くのは止めて・・・」

「いいのよ いいのよ ゴメンナサイはお母さんの方なのだから―――」(本当に 私って母親失格だわ―――)

 

結局 彼女は多少の疚しさはありましたが 息子の優しさに助けられて めでたく再婚したのでした。

            おわり

*本文は去る三月のブログに手を

孫への遺書 四番「じゅんの家出」

(梗概)

 母親は 東京で協議離婚をすると 三歳のじゅんを連れて大阪の実家に戻りました

実家では生業の居酒屋を手伝い 常連客の小野田中年男と沼田青年の二人の男と懇意になりました

 母は沼田青年と結婚することに為り 未来の家族三人は遊園地に出かけた

途中 じゅん児童は姿を消失させ 小野田さんのアパ-トに現れました。

 子供の突然の行方不明事件で 警察・親・近所は大騒ぎ、その顛末です。

 

 (本文)

  じゅんの父親は 個人営業の仕出し屋をやっていました 十五の歳から勤め上げた親方ののれん分けでありました 出身が極端な貧乏であったせいか 少年は成人になっても 酒ギャンブルをはじめ遊びごとには疎い男であった。それに天性の腕の良さです。

 親方は青年をことのほか気に入り 自分の姪を娶せ店を持たせたのでした。

  若者は親方の期待に応えてくれました。朝は五時に起きて大釜に火を入れることから一日が始まり 明日の仕込みが整い包丁を納めるのは春夏秋冬を通じて夜中近かったのです。

家族三人の団欒の時間はない。金持ちのお嬢さん学校とは言え 一応は大学卒である妻には会社経理を任せ 水仕事は一切やろそうとはしないのでした

 妻は 商売用の弁当持参で 息子と近くの公園で多くの時間を会話もなしに過ごすのが日課だったのです。

 お別れの前日 家族三人は店を臨時休業として 横浜まで足を延ばし中華街で食事をしました。

 夜は 淳はお父さんとお風呂に入り、そして一緒に寝ました

 

  翌日は東京駅まで新幹線を見送ってくれました

  実家の居酒屋は この界隈では古株に属します  生前の父親は 商売仲間にも 酒飲み放浪者の間にも  お堅い“偏固“者と評判でありました。経歴も係累も全く噂にならない御仁でした。 世俗的には面白みのない男なのです。  なにせ 死んで分かったのですが この男には色っぽい女房もいるし そして二人の美人娘がいたのです。 この事実は世間を驚かせました  日陰の訳あり中年独身が通り相場だったのですから  女家族は客の前には出さなかったのも不思議ではありません。夫の死後 未亡人となった祖母は 滅茶苦茶に働きだしました

後家の踏ん張りと これはこれで常連客の人気となったのですが 居酒屋は常連客だけではない 自分の体力のこともあって 若い女の子を接客に雇い入れたのです。 ところが この女 若いのに水商売は大変な経験者だったのでした。

ど素人の俄か女将の酒場は お茶の子サイサイ。 女の子は慣れた口先で一週間ほど接客を見せてくれました  店内の流れもスム-ズになったと思いきや ど素人女将は 此処で玄人の女の子をクビにして周囲を驚かせたのです。  それでも一月分の給料をだして謝礼としています。、

 女将はプライドを見せたのはいいのですが 居酒屋は忽ち閑古鳥が鳴かんばかりの雰囲気となってしまったのでした。 年寄りの常連客の顔触れは相変わらずと言うところですが どうも あまりパットしない印象です。

 母親の困惑した表情を見て 出戻り娘が「私が店を手伝う・・・」

此れには 母親も学生の妹も「ダメダメ・」と首を振ったのですが 内心は「あの引っ込み思案の姉の変わりようにビックリしたのが本当の印象でした

 気の進まない女将を押し切って 「まあアルバイトとして頑張って呉れたら…」ぐらいにしか周囲は期待してなかったのですが  ところが このピンチ・ヒッタ-が大当たり

二十三歳の若さ 地元お嬢さん大学出身の才媛 気は優しくて美人 まるで 天性のホステスでした。。

 

ゼニ勘定はリ-ズナブル 雰囲気はアットホ-ム プロの街に咲いた素人の居酒屋です。常連客が増えました。

 あれから二年近くの時が流れました。こんな短い時間に 実にさまざまの人物と知り合いになりました。自分でも すっかり大人に変身してしまった自分自身に感動しているほどでした 静かだった結婚時代は 彼女には苦痛な時間であったのかもしれません。

 

 彼女は若い、二人の男に恋をしました。 一人は小野田のおじさん。 もう一人は沼田のお兄さんです。

 小野田のおじさんは ジュンが会いたいと思った時には不思議にやって来ます。

直ぐ公園です。鉄棒とサッカ-の練習です 幼稚園でしり上がりの出来るのは自分だけです。 皆の前でやって見せて 驚く顔を見るのは最高の気分です。

 沼田のお兄さんとは先日ホテルのディナ-ショウに行きました。お母さんも一緒です。どちらかと言えば お母さん好みのショウでした。涙を流さんばかりに喜ぶ母を見ているとジュンもつい嬉しくなります。

 

 お母さんが再婚することに為りまりました

相手は沼田の兄さんです。小野田のおじさんではありませんでした。

その夜 お母さんは「ジュンは 沼田のお兄さんのこと嫌いじゃないわよね?」と 

しつこい程何度も何度も同じことを聞くのです。僕の手をつかんで ジッと確かめる母の目があまりにも心配そうなので

「大丈夫だよ 僕お兄さん大好きだから・・・」と 元気づけたのに それでも お母さんは「お願い お願い お母さんの一生のお願い-----」

ジュンを 何時までも抱きしめているのでした。

 

 ジュンとお母さん沼田の兄さん三人は遊園地に行くことに為りました。

 その朝 約束の駅まで ジュンと母は半分走って急ぎました沼田の兄さんはすでに先に来ていて駅前で手を振っているのが遠くからも見えました。

「ほら お父さんよ  良かったわね---」

一寸戸惑っていると 「お母さんと どっちが速いか競争しようか?」

「ヨーイ ドン!」 母はジュンの手を放しました。 

 ジュンの姿は人混みの中を器用に縫っていくように見えました。日曜日の駅前は家族ずれでごった返しております

 お母さんはお兄さんと直ぐおしゃべりを始めています。 この時 ジュンは二人の前から忽然と消えてしまったのでした。

此処は以前にも何回も来ています 慣れているはずです。

「あら嫌だ こんな処で かくれんぼでもするつもりかしら?」

お母さんは軽く笑って お兄さんと話が弾んでいます。

「それにしてもまだ来ないわ?何してんのかしら?」

周囲をキョロキョロする。 嫌な予感がするのです。それは 沼田のお兄さんも同じです

 「ジュン ジュン」人ごみの中を探してみます。 いません

不安がつのってきます。悪いことを考えてしまいます。交通事故—乱暴に人をはねのけて「ジュン…」と大声に叫んでしまう

お母さんの頭の中は<真っ白>です。 沼田のお兄さんに任せておれない・・・

通り合わせの警察官に「子供がーーー、こどもがーーー」と まくし立てるけど 早口で意味がサッパリ解らない。

 「そうだ お婆ちゃんの処にもどったかもしれない---」

そうだ そうだ 今来た道を急いで引き返します 走って 走って 全力疾走です

-----それにしても どうして? やはり 小野田のおじさんのことなのか?

お母さんは そのことを考えざるを得ないのでした

 沼田のお兄さんも 後を追って走ります  <やはり 俺のことを避けているか----->

  所変わって 小野田のおじさんの家です。 親子の店からは1キロ程離れた古い木造二階のアパ-トです。

 何かがドアをトントン叩きます。小さな音なのでハッキリしません。 今日は勤めが休みなので まだ布団の中でマゴマゴしていたのでした  なんだろう---?  誰か来たのかな?  面倒臭いなあ---  しぶしぶ起きて「誰?」と 戸を開けると「なに これ?」  ビックッリ  信じられない

 二三歳の子供がこっちを見上げてニコニコしてるではないか、ジュンです。

「やあ---」と言った小父さんの声が心なしか幾分泣き節です。感動のあまり言葉にならない。

 実は 小野田さんは母親と沼田の兄貴との結婚話は耳にしておりました. 母親のことは別としてもジュンのことが気にかかり思案に沈んでいたところだったのです。

取りあえず「まあ 入れ入れ…」 急いで布団を上げバタバタ片付ると ジュンが来たときにはと用意してたチェリ-の缶詰を開けた。彼の好物である。

『よく来たなあ-? お母さんは後から来るのかい?』 それには答えず 美味い美味いと食べています。

 小野田のおじさんは学校給食の仕事をしています。 東京に残してきた父親と同じ匂いがします。 

二人は それから二時間ほど夢中で遊びました。部屋には 小さな鉄棒が組み立てております。 おじさんが ジュンが来たときのために買っておいたものです。

 遊びながらも どうも腑に落ちません

後から来るはずのお母さんが一向に姿を見せません。 なのに ジュン自身は一向に気にしている様子はないのです。何時もなら母親が一寸トイレに立ったぐらいでも後を追うくせに 。なんか変である。

確かめる思いで おじさんはため息交じりに「お母さん遅いね・・・」

「お母さん 来ないよ!」 驚くほど素っ気無い返事です。 えっ---そんな---

「じゃ---一人で来たの?」 「うん-」  そんなの 嘘っ

距離にしたら さしたる距離ではないかもしれない。 それでも大人の足では二十分はかかる。 三歳の子供いしたら大冒険ものであろう。

 以前 お母さんと二度ほど一緒に来たことはある。 それにしても 曲がりくねった街の中をよくぞ歩いたものだ しかもアパ-トの部屋まで上がって来たのだから 感動のあまり涙が浮かんできます。

それにしても 駅から家に戻り おばあちゃんに見つからずに頑張ったのですから奇跡に近いでしょう  よくぞ 道筋を覚えていました ありがとう

 

 実はこ゚の頃 ジュンの家では大変な騒ぎとなっていました。 親の目の前で子供が消えてしまった。オカルト遊びじゃあるまいし 前代未聞の出来事っです。

お母さんは店の前にへたり込んでしまい 沼田の兄さんと近所のおばさんが何を言っても放心状態です。なすすべがありません。

思い当たるところは全て当たりました。 まさか 小野田さんの処とは 誰一人思い起こす人はいない。名まえさえ口に出すものはない。

 ただ お母さんと沼田の兄さんは 「もしかしたら・・・」と 小野田さんの存在は気にかかるところですが 頑是ない子供がこんな大冒険をやる なんてことはテンから空想だに出来ないことでした。

話は小野田さんのアパ-トに戻ります。

ジュンは鉄棒に夢中です  おじさんは考え込んでしまいます。

電話をしてみるか--- でも 沼田が出たら 何というか?   さて どうする?

店からここまでの道順は大略決まっている。 此方から歩いていけば 迎えに来るであろう母親に会うに違いない    「ヨ――シ 帰るぞ---」*

ジュンは何故か帰るのを嫌がった それをなんとか納得させて 二人は手をつないで歩きだしたのです。ジュンはノロノロ、珍しく愚図るので抱っこをするしかないのでした。

とうとう顔見知りに出会うこともなく店につきました。

 「ジュンが戻ったぞ---」 大騒ぎです。

ジュンのお母さんは「ワ-」とか「ギャア-」とか叫んで走りよると やにわにジュンの頬っぺたを殴った

(それは無いよ---) ジュンはお母さんにとんでもない悪いことをしてしまった と半ば後悔していました  とに角遭ったら即「ごめんなさい」と言うつもりでいたのに 顔を見るなにビンタかよ? 僕の気持なんか 初めから全然お呼びじゃないのか・・・悔しいけど 笑っちゃ・・・いけないんだ。

 見ると お母さんは泣いて怒っています。   どうしよう?  困った。

だけど 僕、故意と小野田のおじさんとこに行ったのでは無いよ、気が付いたら着いていたんだから。 「何なのか 僕わかんない---」

 母は解ってくれるどころか ますます怒りますます泣くのでした

彼女はショックだった。まさか ヤッパリ 小野田さんとこに行っていたのか―――

お兄さんには 何と弁解したらいいか・・・

どんなにか 母親を虐めてしまったか  ジュンは「ごめんなさい ごめんなさい 」「もう二度としません 僕 お母さんの言いつけ通り頑張ります---  だから泣くのは止めて・・・」

「いいのよ いいのよ ゴメンナサイはお母さんの方なのだから―――」(本当に 私って母親失格だわ―――)

 

結局 彼女は多少の疚しさはありましたが 息子の優しさに助けられて めでたく再婚したのでした。

            おわり

*本文は去る三月のブログに手を

孫への遺書 四番「じゅんの家出」
(梗概)
 母親は 東京で協議離婚をすると 三歳のじゅんを連れて大阪の実家に戻りました
実家では生業の居酒屋を手伝い 常連客の小野田中年男と沼田青年の二人の男と懇意になりました
 母は沼田青年と結婚することに為り 未来の家族三人は遊園地に出かけた
途中 じゅん児童は姿を消失させ 小野田さんのアパ-トに現れました。
 子供の突然の行方不明事件で 警察・親・近所は大騒ぎ、その顛末です。

 (本文)
  じゅんの父親は 個人営業の仕出し屋をやっていました 十五の歳から勤め上げた親方ののれん分けでありました 出身が極端な貧乏であったせいか 少年は成人になっても 酒ギャンブルをはじめ遊びごとには疎い男であった。それに天性の腕の良さです。
 親方は青年をことのほか気に入り 自分の姪を娶せ店を持たせたのでした。
  若者は親方の期待に応えてくれました。朝は五時に起きて大釜に火を入れることから一日が始まり 明日の仕込みが整い包丁を納めるのは春夏秋冬を通じて夜中近かったのです。
家族三人の団欒の時間はない。金持ちのお嬢さん学校とは言え 一応は大学卒である妻には会社経理を任せ 水仕事は一切やろそうとはしないのでした
 妻は 商売用の弁当持参で 息子と近くの公園で多くの時間を会話もなしに過ごすのが日課だったのです。
 お別れの前日 家族三人は店を臨時休業として 横浜まで足を延ばし中華街で食事をしました。
 夜は 淳はお父さんとお風呂に入り、そして一緒に寝ました

  翌日は東京駅まで新幹線を見送ってくれました
  実家の居酒屋は この界隈では古株に属します  生前の父親は 商売仲間にも 酒飲み放浪者の間にも  お堅い“偏固“者と評判でありました。経歴も係累も全く噂にならない御仁でした。 世俗的には面白みのない男なのです。  なにせ 死んで分かったのですが この男には色っぽい女房もいるし そして二人の美人娘がいたのです。 この事実は世間を驚かせました  日陰の訳あり中年独身が通り相場だったのですから  女家族は客の前には出さなかったのも不思議ではありません。夫の死後 未亡人となった祖母は 滅茶苦茶に働きだしました
後家の踏ん張りと これはこれで常連客の人気となったのですが 居酒屋は常連客だけではない 自分の体力のこともあって 若い女の子を接客に雇い入れたのです。 ところが この女 若いのに水商売は大変な経験者だったのでした。
ど素人の俄か女将の酒場は お茶の子サイサイ。 女の子は慣れた口先で一週間ほど接客を見せてくれました  店内の流れもスム-ズになったと思いきや ど素人女将は 此処で玄人の女の子をクビにして周囲を驚かせたのです。  それでも一月分の給料をだして謝礼としています。、
 女将はプライドを見せたのはいいのですが 居酒屋は忽ち閑古鳥が鳴かんばかりの雰囲気となってしまったのでした。 年寄りの常連客の顔触れは相変わらずと言うところですが どうも あまりパットしない印象です。
 母親の困惑した表情を見て 出戻り娘が「私が店を手伝う・・・」
此れには 母親も学生の妹も「ダメダメ・」と首を振ったのですが 内心は「あの引っ込み思案の姉の変わりようにビックリしたのが本当の印象でした
 気の進まない女将を押し切って 「まあアルバイトとして頑張って呉れたら…」ぐらいにしか周囲は期待してなかったのですが  ところが このピンチ・ヒッタ-が大当たり
二十三歳の若さ 地元お嬢さん大学出身の才媛 気は優しくて美人 まるで 天性のホステスでした。。

ゼニ勘定はリ-ズナブル 雰囲気はアットホ-ム プロの街に咲いた素人の居酒屋です。常連客が増えました。
 あれから二年近くの時が流れました。こんな短い時間に 実にさまざまの人物と知り合いになりました。自分でも すっかり大人に変身してしまった自分自身に感動しているほどでした 静かだった結婚時代は 彼女には苦痛な時間であったのかもしれません。

 彼女は若い、二人の男に恋をしました。 一人は小野田のおじさん。 もう一人は沼田のお兄さんです。
 小野田のおじさんは ジュンが会いたいと思った時には不思議にやって来ます。
直ぐ公園です。鉄棒とサッカ-の練習です 幼稚園でしり上がりの出来るのは自分だけです。 皆の前でやって見せて 驚く顔を見るのは最高の気分です。
 沼田のお兄さんとは先日ホテルのディナ-ショウに行きました。お母さんも一緒です。どちらかと言えば お母さん好みのショウでした。涙を流さんばかりに喜ぶ母を見ているとジュンもつい嬉しくなります。
 
 お母さんが再婚することに為りまりました
相手は沼田の兄さんです。小野田のおじさんではありませんでした。
その夜 お母さんは「ジュンは 沼田のお兄さんのこと嫌いじゃないわよね?」と 
しつこい程何度も何度も同じことを聞くのです。僕の手をつかんで ジッと確かめる母の目があまりにも心配そうなので
「大丈夫だよ 僕お兄さん大好きだから・・・」と 元気づけたのに それでも お母さんは「お願い お願い お母さんの一生のお願い-----」
ジュンを 何時までも抱きしめているのでした。

 ジュンとお母さん沼田の兄さん三人は遊園地に行くことに為りました。
 その朝 約束の駅まで ジュンと母は半分走って急ぎました沼田の兄さんはすでに先に来ていて駅前で手を振っているのが遠くからも見えました。
「ほら お父さんよ  良かったわね---」
一寸戸惑っていると 「お母さんと どっちが速いか競争しようか?」
「ヨーイ ドン!」 母はジュンの手を放しました。 
 ジュンの姿は人混みの中を器用に縫っていくように見えました。日曜日の駅前は家族ずれでごった返しております
 お母さんはお兄さんと直ぐおしゃべりを始めています。 この時 ジュンは二人の前から忽然と消えてしまったのでした。
此処は以前にも何回も来ています 慣れているはずです。
「あら嫌だ こんな処で かくれんぼでもするつもりかしら?」
お母さんは軽く笑って お兄さんと話が弾んでいます。
「それにしてもまだ来ないわ?何してんのかしら?」
周囲をキョロキョロする。 嫌な予感がするのです。それは 沼田のお兄さんも同じです
 「ジュン ジュン」人ごみの中を探してみます。 いません
不安がつのってきます。悪いことを考えてしまいます。交通事故—乱暴に人をはねのけて「ジュン…」と大声に叫んでしまう
お母さんの頭の中は<真っ白>です。 沼田のお兄さんに任せておれない・・・
通り合わせの警察官に「子供がーーー、こどもがーーー」と まくし立てるけど 早口で意味がサッパリ解らない。
 「そうだ お婆ちゃんの処にもどったかもしれない---」
そうだ そうだ 今来た道を急いで引き返します 走って 走って 全力疾走です
-----それにしても どうして? やはり 小野田のおじさんのことなのか?
お母さんは そのことを考えざるを得ないのでした
 沼田のお兄さんも 後を追って走ります  <やはり 俺のことを避けているか----->
  所変わって 小野田のおじさんの家です。 親子の店からは1キロ程離れた古い木造二階のアパ-トです。
 何かがドアをトントン叩きます。小さな音なのでハッキリしません。 今日は勤めが休みなので まだ布団の中でマゴマゴしていたのでした  なんだろう---?  誰か来たのかな?  面倒臭いなあ---  しぶしぶ起きて「誰?」と 戸を開けると「なに これ?」  ビックッリ  信じられない
 二三歳の子供がこっちを見上げてニコニコしてるではないか、ジュンです。
「やあ---」と言った小父さんの声が心なしか幾分泣き節です。感動のあまり言葉にならない。
 実は 小野田さんは母親と沼田の兄貴との結婚話は耳にしておりました. 母親のことは別としてもジュンのことが気にかかり思案に沈んでいたところだったのです。
取りあえず「まあ 入れ入れ…」 急いで布団を上げバタバタ片付ると ジュンが来たときにはと用意してたチェリ-の缶詰を開けた。彼の好物である。
『よく来たなあ-? お母さんは後から来るのかい?』 それには答えず 美味い美味いと食べています。
 小野田のおじさんは学校給食の仕事をしています。 東京に残してきた父親と同じ匂いがします。 
二人は それから二時間ほど夢中で遊びました。部屋には 小さな鉄棒が組み立てております。 おじさんが ジュンが来たときのために買っておいたものです。
 遊びながらも どうも腑に落ちません
後から来るはずのお母さんが一向に姿を見せません。 なのに ジュン自身は一向に気にしている様子はないのです。何時もなら母親が一寸トイレに立ったぐらいでも後を追うくせに 。なんか変である。
確かめる思いで おじさんはため息交じりに「お母さん遅いね・・・」
「お母さん 来ないよ!」 驚くほど素っ気無い返事です。 えっ---そんな---
「じゃ---一人で来たの?」 「うん-」  そんなの 嘘っ
距離にしたら さしたる距離ではないかもしれない。 それでも大人の足では二十分はかかる。 三歳の子供いしたら大冒険ものであろう。
 以前 お母さんと二度ほど一緒に来たことはある。 それにしても 曲がりくねった街の中をよくぞ歩いたものだ しかもアパ-トの部屋まで上がって来たのだから 感動のあまり涙が浮かんできます。
それにしても 駅から家に戻り おばあちゃんに見つからずに頑張ったのですから奇跡に近いでしょう  よくぞ 道筋を覚えていました ありがとう

 実はこ゚の頃 ジュンの家では大変な騒ぎとなっていました。 親の目の前で子供が消えてしまった。オカルト遊びじゃあるまいし 前代未聞の出来事っです。
お母さんは店の前にへたり込んでしまい 沼田の兄さんと近所のおばさんが何を言っても放心状態です。なすすべがありません。
思い当たるところは全て当たりました。 まさか 小野田さんの処とは 誰一人思い起こす人はいない。名まえさえ口に出すものはない。
 ただ お母さんと沼田の兄さんは 「もしかしたら・・・」と 小野田さんの存在は気にかかるところですが 頑是ない子供がこんな大冒険をやる なんてことはテンから空想だに出来ないことでした。
話は小野田さんのアパ-トに戻ります。
ジュンは鉄棒に夢中です  おじさんは考え込んでしまいます。
電話をしてみるか--- でも 沼田が出たら 何というか?   さて どうする?
店からここまでの道順は大略決まっている。 此方から歩いていけば 迎えに来るであろう母親に会うに違いない    「ヨ――シ 帰るぞ---」*
ジュンは何故か帰るのを嫌がった それをなんとか納得させて 二人は手をつないで歩きだしたのです。ジュンはノロノロ、珍しく愚図るので抱っこをするしかないのでした。
とうとう顔見知りに出会うこともなく店につきました。
 「ジュンが戻ったぞ---」 大騒ぎです。
ジュンのお母さんは「ワ-」とか「ギャア-」とか叫んで走りよると やにわにジュンの頬っぺたを殴った
(それは無いよ---) ジュンはお母さんにとんでもない悪いことをしてしまった と半ば後悔していました  とに角遭ったら即「ごめんなさい」と言うつもりでいたのに 顔を見るなにビンタかよ? 僕の気持なんか 初めから全然お呼びじゃないのか・・・悔しいけど 笑っちゃ・・・いけないんだ。
 見ると お母さんは泣いて怒っています。   どうしよう?  困った。
だけど 僕、故意と小野田のおじさんとこに行ったのでは無いよ、気が付いたら着いていたんだから。 「何なのか 僕わかんない---」
 母は解ってくれるどころか ますます怒りますます泣くのでした
彼女はショックだった。まさか ヤッパリ 小野田さんとこに行っていたのか―――
お兄さんには 何と弁解したらいいか・・・
どんなにか 母親を虐めてしまったか  ジュンは「ごめんなさい ごめんなさい 」「もう二度としません 僕 お母さんの言いつけ通り頑張ります---  だから泣くのは止めて・・・」
「いいのよ いいのよ ゴメンナサイはお母さんの方なのだから―――」(本当に 私って母親失格だわ―――)

結局 彼女は多少の疚しさはありましたが 息子の優しさに助けられて めでたく再婚したのでした。
            おわり
*本文は去る三月のブログに手を入れたものです