私の終活 [暴力教師」(6700字)  中津さんそん

 

(梗概)

 安っぽい不良少年と名指しされております

確かに 登校不良、成績不良 品性不良 万引き補導多数 公私ともにネグレクト濃厚

その他いろいろ ですが 本人はいたって平凡な少年です。

學校さぼって日がな一日河原に寝そべって浮雲と戯れています 腹空けば デパ地下で世界中の珍味を試食させてもらっている贅沢ガキでもあります。

 少年は心ならずも 障碍者の級友を侮辱苛めてしまいました

事件の場で 担任から暴力を受ける羽目となり 事は思わぬことに為ってしまった事件と 少年が 苛め被害者の級友と彼の父親に謝罪に行った顛末のお話です。

 

」(本文)

 

力教師

 朝 少年は何時もの時間に家を出ました でもまっすぐ学校に向かう気はありません。いつもの狎れた河原に向かっております。特別なようじがあるわけではありません。  ただ 一日中寝転がって雲の流れを眺めているだけです。

 給食を抜いているせいでしょう 腹が空いて堪らない。陽が大分傾いているところをみると ちょっと眠っていたようです。と言っても このまま家に帰る気など毛頭ない。

 少年は中学二年生 こんな場面を描くと いかにを学校の嫌いな哲学少年のようですが 実際は、平凡で平凡でどうしようもない”目立つの嫌いな”少年にすぎません。

學校は休みが多いけど 特別 問題生徒でもありません 嫌いな先生がいるでなし 苛めはする方も される方にも関係ありません。女の子には優しいし,乱暴しないし。本当に平和的な存在です。

勉強は嫌いですから 成績の方は微妙ですけれど それを気にする本人でも家庭環境でもありません。

少年の周囲には 本人を敬遠する空気があるせいか 友達と一緒の姿を見ることが無いのが 担任教師には要注意なのですが 「俺は友なし運命」なんて孤独ぶっているのです

全く やる気があるのかないのか始末に困るボウフラ少年です。

 

 家に帰らないといっても 向かう先は決まっている。デパ地下食品売り場しかない。 少年は いま <食べること>に集中しています.勉強は食い物だ。

 デパ地下には世界中から食品が集まってきます。

松茸、ホアグラなんて高級品もいいですけど 少年の目的は惣菜売り場です。

肉じゃが ひじきの煮物 ホ-レン草のお浸し ブリ大根 酢豚 大根おろし等々 何でもいいから普通がいい。普通の家族が毎日普通に食べるやつがいい。 特別な日の特別な食事はいらない。カタカナのご馳走は興味ない。スイ-ツはいらない。

最近は惣菜も パック詰めのお持ち帰りが多くなり 少年には 一面に並べ広げられた色々のパックは まさに魔法の絨毯であった。

 ”試食コ-ナ-“が又たまらない。あの楊枝に刺したサンプルです。

「旨いうまい」と回っていると売り場が多いから 味覚も食欲も結構満足させられます。

ところが 少年は常習犯です。 何処の売り場にも顔が割れています。

うっかり手を出すと 「あんたはダメ!」「シッシッ!」と犬みたいに追い払われます。

これは本当に情けない。

 父親は仕事をしておりません。詳しい事情は知りませんけれど 病気にも見えませんけど どこか体の調子が悪いのかもしれません。そのくせ 毎日お酒を飲んで,僕はひとに聞かれたとき 返事に困って嫌なのです。僕には 大人の世界は理解できません。。代わりに お母さんが近所の県立病院の食堂のパ-トに出ています。朝は早いけれど三時には終わります。 帰りには必ず 給食の余りを貰ってきます。 母は家計が助かると喜んでおります。

だから、弟を含めて一家四人の生活は 親父が失業中でも結構リッチなのです。

 なのに 少年は何時も飢えています。 何故って母親も父親も 家では まず調理をすることは滅多にありません 何時も店屋物、みそ汁を作るどころかカレ-ライスを温めることさえしない。 僕みたいなのを 欠食児童と言うんでしょう。

 あまり大きな声では言えませんが 少年は中学二年生までは かなり有名な万引き少年でした。欠食児童の成れの果てです。

 。僕が 万引きを辞めた理由、他人様は理解できるかな。「万引きは悪い」と悟ったから止めたのでもないし 社会を勉強して幾分賢くなったからでもない。世の中の人は僕を誤解しています。 俺は聞き分けのいい賢い子供ではありません。俺は今でも万引きは興味がある。あの充実した瞬間は仲仲いいもんです。俺が万引を止めたのは 親が恥ずかしくなったからです。これでは 何が何だか理解できないでしょう おいおい語っていきます。

 私が親との絆を完全に解消した暁には また「万引き」に復帰しても不思議はないのですが 俺はバカではない。万引き人間の次元の愚劣さを 例え病気だとしても 十二分に理解している だから可能性はNOだけのことです。 

 恥ずかしい思いをした出来事をお話しします。

 

 何回目かの補導の時です

何時もなら 何時もの説諭で返してもらえるのに その日の店長は「癖になる…」と怒りまくり 何時もはやらないのに 学校と親に連絡してしまったのでした   

 この日のことは 話すのも気が引ける。簡単に書いてスル-したいと思います。

先生は即飛んできたのに、肝心の親御の方は「今忙しいからあとにしてくれ・・・」の返事。 店長は呆れ顔で 「自分の息子が万引きで捕まったというのに・・・。 随分と余裕のあるオヤジ様だこと・・・」

 皆さん待ち草臥れた頃 父はやって来ました。しかも赤ら顔で仲間らしき男たちを引き連れての堂々たるご来場でした。 部屋は忽ち人でいっぱい異様な雰囲気と変わります:。

飛び交う罵声も元気がいい まるで酒場の酔っぱらい喧嘩です。 まともな話し合いが出来る空気ではありません。

店長もガ-ドマンも「もう勘弁してくれ」. 夕方のラッシュアワ-を前にして 心は一刻も早く職場に戻りたいのです。 教師は逃げ足が速い。 何処に行ったの? 姿は見えない。

イライラ 完全にお手上げです。 少年は 無罪放免されたのでした

少年自身が万引きを認めて謝っていたのにです。 事件は 少年や店長の思いの外に決着したのでした。父親は 我々の貫禄で自分の子供を救ったんですから、そりゃ--悪い気はしません。  息子には 「どうだ お父さんは凄いだろう?」と自慢したいところですが それは流石に遠慮しました 妻には 何となく能書き言ってプライドを満足させていたようすです。

 要するに 父子は敬遠されただけの話なのです・・・・

少年は スッカリ嫌気が刺しました  俺の人生 親父の助けは要らない。

 

 一週間ぶりの学校です。 又 あいつの顔を見るのかと思うと憂鬱です。 まあ いいか― 

実は 同じクラスにかなりムカツク奴がいるのです。 山田君と言います。

二人は近所、生まれたときから同じ町内に住んでいて 親同士も顔見知りなのに ぜんぜん二人には友達付き合いが無いのです。特別に喧嘩をしている間でもありません  でも十年近く学校は同じ、今はクラスも同じです。 なのに全然親しくなる可能性はない。何故だか知らないけど 考えてみたら変な話かもしれません。

 山田君は足が悪い。釣り人形のようにヨタヨタ歩く、体育の時間はいつも見学です。

痩せていて色が白いから 見た目はひ弱ですけど 実際は凄いほど強い男です。学校の廊下階段は誰の助けも借りない。階段の上り下りなどは まるでサ-カス少年です。

手摺につかまって蟹の横バイなんだけど。

 

その降りる時は。二・三段どころか 時には十段ぐらいも一度に降りて見せることもある。。どうするかというと 手すりにつかまって跳ね上がる、そして宙に浮いている間に スルスル-と腕の支えだけで下るのです。 皆は喜んで手を叩きます。 お茶目なユ-モアもあるのです。

 勉強が又すごい。国語英語数学のテストは何時も学年トップです。

昼休みには 何時も一人で難しそうな本を読んでいます。

舐めて掛かったら 飛んでもないことに為る事を皆は知っているから 苛めなんてことは絶対起こりっこないのです。

 あの父親のことだから 必ず何か 必殺技を教えているに違いないのです。

一度山田君の喧嘩を見てみたいものです。凄いだろうな---!

でも やはり ムカツクことに変わりはありません。

 

 今日は學校にいくことにします

朝の校門で 又山田くんち親子三人に出あってまいました

 山田君は車いす登校です。正門まで親が押してきます。校門からは 山田君は一人で歩いてくるのです。学校に入ってしまったら 例え、山田君が転んだとしても 親は助けに駆け寄ることはありません。

 下校の時間になると どちらかの親が校門の脇で車いすとともに待っています

今日みたいに雨の日でも このシ-ンは必ず見せつけられるのでした。

 

 雨で 体育は自習時間です。先生は居ません。教室は 理由もなくはしゃいでいます。

誰か 黒板の前でお笑いをやっています  教室は 拍手拍手湧いております。

 

全然似ていない。 「降りろ!」とヤジが飛ぶ。

すると 晴美が『お次の番だよ ハイ私!』と、一人漫才をやりだすが ぜんぜん面白くない

晴美を無視して教室は 「チャップ チャップ」とはやし立てます。チャップとは少年のあだ名です。子供たちはチャップリンと言う喜劇俳優を知りません。チャップとは 彼の愛称であることも知らない。少年がチャップと呼ばれるのは チャップリンの真似がうまい芸人に姿恰好が似ているに過ぎない びっこガニ股でドタバきだけなのに…。

 御呼びが掛かると悪い気はしません  何時もの通り始めました待ってました、拍手。登場です

ですが 少年本人は「なんか変だ?どうも調子が出ない」。体調の悪さに気が滅入ります。

知らず知らずの中に 少年の芸は山田君の「びっこ」になっているのです

教室は気づいていませんが 少年は慌てます『どういう事?』

おれは 障碍者の真似をするようなゲスじゃない・・・・

ですが 焦れば焦るほど 教室は沸いてきます  割れんばかりの拍手。

身体中 脂汗でビッショリ。自分で自分が何が何やらわかりません

泣きたい!

少年の泣きっ面がプロの芝居なのでしょう、 益々うけます 拍手。。

 教室の騒ぎを廊下の窓から 清水先生が見ていたのを誰も気が付いていません

「ガラ ガラ」と開けると清水先生が飛びこんできました

少年を引きづり降ろすと 滅茶クチャの平手打ちです。

教室はいっぺんに静まり返りました。余りの激しさに 誰もが「先生は狂っている」と思いました。このままでは死んでしまう。

 この時 騒動を聞きつけて大人たちが駆け付けたので 何とか事は収まったのでした。

 事件の噂はアッという間に広がりました

「暴力教師生徒を半殺し」

教育委員会が来る 人権団体が来る マスコミがわんさ来る。

連日見慣れない顔がうろついて 学校はいっぺんに感じ悪くなりました。

特に目立ったのは 少年の両親とそのサポ-タ-でした。当局に激しく抗議 マスコミには精いっぱいの情報をサ-ビスします。

正直言って 少年は両親がこんなにも教育熱心だとは知りませんでした。

それにしても 騒動の原因は 少年の悪ふざけにあったのに 当の少年は蚊帳の外なのでした

「まるでバカ騒ぎ 大人たちのやることは…」 少年の結論です。

時間が経つにつれ 学校は静かになりましたが、少年の気持ちは落ち着きません。

山田君を傷つけてしまった罪です。それも 相手の障害を口にするなんて最低の人間です。恥ずかしくて 世間様に顔出しできないよ

はやく山田君に謝りたい。親や学校の仲介なしに 直接本人に頭を下げたいのです。山田君の父親が出てきたら怖いのです。

少年の父なんか 道でおじさんに出会ったりすると ペコペコ頭を下げて道を譲っている。

山田君処は僕と同じ町内であることは先に言いました。利用している銭湯もおなじです。

だから 当然 悪い予感がありました。

案の定 山田父子に出会ってしまったのです。 風呂場で、しかも素っ裸です。 もう 逃げられません。

「ヤバイ」

率直に謝るしかない。小細工の通じる相手ではないのです。

真っ裸で山田親子の前に直立不動の姿勢を取りました。

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、僕が悪いのです」 精いっぱいの勇気です。

ところが おじさんは少年をジロリと眺めて、黙して語らず<なんだ このガキ?>と言わんばかりの顔付きです。

口も利きたくないほど 伯父さんは怒っているに違いありません

そりゃ 障害の息子を虐めた奴を目の前にしたら 誰だって切れるでしょう・・・

生半可なことでは許してもらえない。 「どんな罰でも受けます」少年はいきなり土下座をしたのです。 しかも裸で 。

 少年は小さい時から立派なヤクザに憧れていました。ですから 無意識のうちに子供らしからぬ格好をつけてしまったのでしょう。裸の少年に土下座されては大人の方が困ってしまう。

おじさんは 怒っている顏ではありません、妙な展開にキョトンとしています。

 どういうことだ? と息子の方を見ると きまり悪そうに下を向いて黙っています。

おじさんは 事件のことは真正に何も知らないのです。山田君は <苛められた>ことなど一言も親に話してはいないのです。

 おじさんは「そんな恰好しないで起きなさい

何も知らないでゴメン。よかったら おじさんに説明してくれないかな?」

  「ワッハッハッハ-----」。湯屋をヒックり壊すような大笑いです

息子の頭を 良く我慢したな と言っているように撫ぜながら 

「キミもよく言ってくれたな 勇気のある男の子じゃ」と褒めてくれた。

僕は本当の男の人に 「お前は男だ」と言われたのです。一生の感激です。

おじさんは「それにしても 君のチャップリンは余程下手糞なんだな」と笑う。「とてもお笑い芸人にはムリだな」(芸人なんか なりたくないや)

そうだ 坊ず 良いことがある。 

今度の悪さの罰として おじさんの背中を洗いなさい。

下手糞芸人には修業が必要じゃ。背中流しも大事な内弟子修行じゃ」

 

おじさんは一人ご機嫌です。背中を洗えと言われても、少年はこんな化け物みたいな背中見たことないから ビビって近つけない。

 山田君に聞くと 

笑って堪えない まさか?と黙って突っ立っていると

「早くヤレ-」の おじさんの催促です。 

 解ったよ やりゃいいんだろう 少年は半分目を閉じて 手を飛ばした時

後から山田君が[気味悪いだろう? これ刺青を消した痕だよ。危ないことないから大丈夫だから・・・

 おじさんは 上向いて目を閉じているだけです。

観ているだけで震えがくるのに 洗うとなると どうしても触らないわけにはいかないだろう

 さて どうするか? おじさんは 二人がモタモタ困っているのに知らんプリです。

 結局 少年は山田君とショマ・ショマありましたが協力して 云いつけ通り背中を流し終わりました 

一方は遠くら憧れていた大人の人に話が出来た感激に頬を赤らめ 一方は

<今日は あいつのお蔭で何か大変なことをやったみたいだ>と 何時もよりはよリ平和な顔つきでした 

 

 水先生の退職が決まりました、懲戒免職 クビです。

學校がすっかり嫌になってしまいました。

普通 教師の転勤や退職の時には 全校集会やって 先生の挨拶があるものです。 集会も何もない 校長先生からの報告もない  

 清水先生が私物の整理に来たのを 少年は二階の窓からちょうど見つけたのです。 ドングリ頭の先生が校庭を横切るところでした。

少年は自分を抑えることが出来ない、授業中の教室を飛び出していました。背後に 誰かの大きな声がしたようだ。

少年は階段を転げ降りると 真っすぐ裸足のまま先生の後を追いました。正門から国道を駅の方向に歩いています。

 「先生---」大声の少年に、先生は振り返り「おお 来たか--  待っていたぞ」

「先生 僕 山田君に謝りました。 お父さんにも 背中流して許してもらいました」

うん そうか・そうか ニコヤカに顔を崩して「ヨカッタ ヨカッタ」頷いてくれました。

中流して云々は意味不明でしたけれども 「自分一人で頑張ったんか?」

「ハイ」  先生は涙が出てしまった。こいつが一人であのオッカナイ父子の処に頭下げに行ったのか 強いヤツだ。 「良くやった 君はエライ!」

 先生に褒められて 少年はやっとすべてに安心したのでした

 

 そにしても誰も見送りに来ていません。 校長も先生も父母会の人も

生徒さえもだ。 「どいつも こいつも  バカ野郎---」

あの時先生は 僕を殴りながら「どうして?何故だ?こんなバカなこと?」

と泣いていた。何故泣いているのか それが不思議で不思議で 僕は自分が今殴られていることを知らなかったほどです。

平手打ちは音はデカイけど大したことないんだ おれを傷つけないための先生の思いやりなんよ。今の俺の気持ち どうにかして先生に伝えたい

残念ながら。どうしていいか解らない 焦ります?

 

 咄嗟に 無意識に 少年は右手を頭につけて敬礼をしていました。警察や自衛隊のように・

すると先生もまた挙手の敬礼で答えていたのです。

「先生の御恩は一生忘れません」 少年は何時までも直立不動の姿勢を崩しませんでした。

                  おわり

*この文章は 去る二月にブログしたものに手入れをしたものです。