今は昔#19 「西成はbase campに過ぎないのに まるで仮想故郷みたい・・」中津sさんそん 。
(はじめに)
昨今のコロナと熱中症には参りました。「俺も老いさらばえたモンダ・・・」 嘆息も出ない 涙も出ない 酒を飲む気にもなれない。男なんて若い内だけの話か・。
私には残り時間もないに等しい せめて己の生きざまを総括したい。焦る焦るのみ。明治維新時 「英語なんて大嫌い。福沢諭吉なんて尻軽、消えてしまえ!」と涙酒を飲んでいた痴呆老人の胸の内良く理解できます。
「今は昔」。この総括を癇癪を起さずに纏めたいものです。
(本文)
青年もかなり尻軽です。西成に戻ったら又すぐ出かけたくなる落ち着きの無さは我ながらどうしようもありません。
バーテンダー・スクールの先生から就職口を紹介されました。 大阪十三ではかなり名のあるクラブでした。
面接の日 人事担当者から「それらしき服装は遠慮されたい」と言われ、スーツの不所持を伝えると 「なら、せめて革靴位は…」と強く指定され戸惑いました。 <普通の夜職場とは 一寸雰囲気が違うみたい>です。革靴は新世界ジャンジャン横丁ガード下でそれらしき男から相応の金で手に入れることが出来た。アパートに戻って「シメシメ思いの外に上物を手に出来た」とほくそ笑んだものです。しかし良く視ると 靴は表面は<そろい>の一対ですが靴底は右左全く違う別メーカーのものでした。
青年は十三で今まで持っていた夜商売に対する知識というか感情・偏見と言ってもいい脳味噌を一変させたのです。
クラブには70人のホステスが在籍していましたが出勤してくるのは半数です。
これがホールの規模相応に上手く回転しているのです。「へー」と 青年には丸の内と変わらない人間managementに関心するのでした。
(おわりに)
青年は現在は82齢の老年になっておりますが 50年も昔を振り返り<よくもこんな酒乱に近い男を雇って>くれたものだと感謝しかありません。
酒池肉林とまでは行かなくとも脂粉に咽る夜の職場で働くことは 男なら生涯一度は経験してみたい夢かも知れません。
青年の知っている夜のバーとは 好色淫乱お目目ギラギラ下心一杯の穴倉でした。
当クラブは十三一番のクラブでした。社長は十三を代表する人物です。”人間“にウルサイことに納得しました。。ここを当てたことは偶然とはいえ若者の未来にとっては非常にラッキーな出来事でした。
私はこの土地を今昔することに気が進みません。
恥ずかしくてやり切れんのです。
おわり